中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

「灼熱の魂」

ある日、カナダで暮らす双子の姉弟ジャンヌ(メリッサ・デゾルモー=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)の母親ナワル(ルブナ・アザバル)が永眠する。後日、長年彼女を秘書として雇っていた公証人(レミージラール)により、母の遺言が読み上げられる。その内容は、所在がわからない自分たちの父と兄に手紙を渡してほしいというもので……。

シネマトゥデイ

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78点

明らかに体力を使う映画だろうなと思い、なかなか見れなかった本作を鑑賞しました。

ドゥニ・ヴィルヌーヴは大好きなんですが…重い映画を見れるコンディションと見れないコンディションってありますよね。

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想通り重い映画でした。ドゥニ・ヴィルヌーヴらしい重厚なテーマで見終わった後しばらく呆然としてしまうような余韻があります。

 

双子のジャンヌとシモンは母ナキアの遺言書を公証人から受け取る。その内容は変わったもので、父親と兄を探して手紙を渡せというもの。それを渡した後、双子に手紙を渡すと書かれ、それが成されるまで墓碑を建てるなと。

姉のジャンヌは父と兄を探すため、母のルーツとなる中東へカナダから旅立つ。しかしそこで知る母の過去は、壮絶な宗教戦争に巻き込まれ翻弄された人生の記録だった。

 

全体的なトーンは今のドゥニ・ヴィルヌーヴより荒々しいものですが、その分作品のテーマが浮き彫りになっていると感じました。

ボーダーラインやプリズナーズではエンタメ性も感じさせつつ、重厚なテーマと深い人物造詣を描いていましたが、本作に関してはエンタメ性は最小限に抑えられています。

 

キリスト教の村に生まれながら、イスラム系難民との間に子供を授かったナキア。子供の父親は宗教観の違いで兄に射殺され、忌み子として生まれた子供は里子に出されます。

その後大学に通い始めるナキアですが、宗教戦争はさらに激化。里子に出した息子を探しに孤児院を訪ねますが、そこは戦火に巻き込まれ廃墟。途中、イスラム系のふりをして乗り込んだバスでキリスト教派政党の襲撃を受け、目の前で別の女性の子供が射殺されるところを見てしまうなど、宗教戦争への怒りを募らせるナキア。

彼女は家庭教師としてキリスト教派政党指導者のものにもぐりこみ、指導者を射殺。監獄に入れられた彼女は「歌う女」と呼ばれ激しい拷問を受けていた。

 

途中のバスへの攻撃などスリリングなシーンもありますが、全体的なトーンは淡々としたもの。ナキアの足跡を追う双子とナキアのシーンが交互に描かれ、ナキアの生涯を追体験していくように物語は描かれていきます。

 

今回のオチは勘のいい人だと途中で気づいてしまうかも知れません。母の秘密は2段階になっており、1つ目が明かされたタイミングで2つ目の結論に至ってしまう人もいるでしょう。

また1つ目の秘密に関してナキアの側のシーンで先に描かれてしまい、その後双子がその真実に気づくという描かれ方をしています。ここは双子が気づくタイミングと観客がそれを知るタイミングを合わせても良かったのかなと思います。

 

もちろん戯曲が原作になっているので、どこまで脚本にドゥニ・ヴィルヌーヴの作家性が出ているかなんとも言えないですが、この最後の秘密がある中で、物語を復讐の物語として描かずに、愛の物語として描いたところに人間への希望を感じさせる視点を感じました。

 

数学者の姉が辿り着く数学的な帰結。非常に美しく壮絶で整理された物語。

気軽に見れる内容ではないですが、残るもののある映画でした。

 

あと、関係ないかも知れないですが、ドゥニ・ヴィルヌーヴってラストにタイトル出す構成好きですよね。余韻が強烈に残るこの構成は個人的にも好きです。