米澤穂信「追想五断章」
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。二十二年前のその夜何があったのか?幾重にも隠された真相は?米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編。
(「BOOK」データベースより)
75点
やはり米澤穂信はセンスのある作家だと思う。
青春ミステリー、殺人ゲーム、青春SF。
色々なジャンルに挑戦し、どれも高い水準で纏め上げる。
どこか斬新さを感じさせる箇所があり、若い感性を感じるところもあり。
とにかく、素晴らしくバリエーションに富み、客観性を持って作品を仕上げている作家という印象。
この物語は5つのリドルストーリーを探す物語である。
そしてその作者の娘はリドルストーリーの最後の一行をもっている。
この仕掛けが既に絶妙である。
短編を探す主人公の芳光とそれを依頼した可南子のストーリーに挟まる短編。
その結末は描かれず、芳光と可南子のストーリーを挟み、最後の一行が明かされる。
構成も素晴らしい上に、短編自体も非常に面白く、ラスト一行の余韻も素晴らしい。
そして"アントワープの銃声"と呼ばれる、短編の作者であり可南子の父と関わる事件。
全てはラストに向けて集約し、見事なラストを作り上げている。
このトリックには驚かされた。
シンプルながら美しい見事なトリックを仕掛け、ミステリとしても上質のものとしている。
しかし、そのトリックと言うべき"仕掛け"の鮮やかさに比べ、真相の平凡さは残念。
その真相事態には早々に気づける上に、真相を頭において考えると、色々な人物の行動原理がまとまらなくなる。
鮮やかな仕掛けは一読の価値がある。
ラスト自体も味がある終わりで良かっただけに、真相の不適合な感覚は残念。