中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

井上夢人「ダレカガナカニイル…」

警備員の西岡は、新興宗教団体を過激な反対運動から護る仕事に就いた。だが着任当夜、監視カメラの目の前で道場が出火、教祖が死を遂げる。それ以来、彼の頭で他人の声がしはじめた。“ここはどこ?あなたはだれ?”と訴える声の正体は何なのか?ミステリー、SF、恋愛小説、すべてを融合した奇跡的傑作。

(「BOOK」データベースより)

24点

 

ホラー風タイトルの井上夢人作品。
内容は純愛SFミステリーといったところか。

主人公の西岡は村の反対運動から新興宗教を警備する仕事に就いた。
しかしその当日に礼拝堂で火災が発生し、教祖が焼死。
その事件の後から、西岡の頭の中では誰が話かけてくるようになった。

他人の人格が入り込むという、比較的ありきたりな設定。
しかし「オルファクトグラム」同様に科学的、心理学的なアプローチを行い、超常現象に対して本人がコミットするまでの過程を省かない手法は面白い。
直ぐに頭の声を他人の人格と認めずに、精神異常を疑う西岡の姿はリアルである。
また頭の声の人格を認めない西岡の姿は、新興宗教・解放の家に対しての住民の過激な反対運動にもテーマとして繋がる。

この小説はどちらかといえば新興宗教側のスタンスで描かれる。
言われもない内容で過剰な反対運動を受ける新興宗教の姿は、視点を変えて地元住民の行きすぎた拒否反応を描き出す。
新興宗教に対しての本質的な問題をはらんだ書き方に感じた。
完全に新興宗教側ではなく、あくまで寄って書かれているだけだが。

ミステリに関してはシンプルで面白みは無い。
トリックもとりあえずミステリにする為に用意しました的な物。
また最終的な真実もあまり納得が行かない。
性格は人格や魂となった時に以前の傾向をどこまで引きずるのか。
架空の事象に対しての疑問だが、全くの別人格として描き、そこに説明がないのはいかがなものか。

恋愛に関してもあまりにも直情的すぎる気が。
現実は大概直情的だが、その心理を紐解き描写するのが恋愛小説なら、その責務は果たせていない。