東野圭吾「赤い指」
少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。
(「BOOK」データベースより)
51点
直木賞受賞後第一作となる書き下ろし小説。
物語は三人の視点で描かれる。
東野圭吾作品ではおなじみの主人公・加賀恭一郎。
恭一郎の従弟で警視庁捜査一課の刑事・松宮脩平。
照明器具メーカー勤務する男・前原昭雄。
認知症の母、介護に理解が無く息子を溺愛する妻、対人関係に難がある息子に囲まれ、息の詰まる生活をしている昭雄。
ある日、彼が妻からの電話で急ぎ帰宅すると、庭に少女の死体があった。
妻は息子が殺したといい、息子の将来のために隠蔽するしかないと昭雄に伝える。
昭雄は隠蔽を進めるが、周囲にちらつく警察の影を感じ、禁断の手を使うことを考え始め・・・。
事件が発生する前原家、この家には色々な問題が潜んでいる。
というか潜みすぎている。
ここまで酷いと非現実的と言うか、現代社会の闇を凝縮したはずなのに、妙に前時代的に感じてしまう。
家族を尊敬せず、対人関係にも問題を抱え、少女を殺害しても罪悪感のかけらも見せない息子。
そんな息子を溺愛し、殺人をしても反省すら促さない妻。
妻から執拗に避けられ疎まれている認知症の母。
問題を抱えた家庭を一切顧みず、全てを他人のせいにする昭雄。
こんな家庭が全く無いかと言えば、そんな事は無いと思う。
だが妙にリアリティが無いのは、その理由の内面に踏み込んでいないからだ。
なぜ息子は家にこもり、家族を避けるのか?
なぜ殺人をしても罪悪感を抱かないのか?
なぜ妻は殺人を犯した息子をしかることすらしないのか?
なぜ父親はここまで家庭を顧みないのか?
全ての理由が投げ出されて、事象のみが"現代的な要素"として切り出されている。
これでは深みも何も無い、ただのサイコパスの集団としか思えない。
この小説では加賀の家族についても描かれていく。
こちらは深みのある父と子の物語として描かれているが、犯人側との対比が露骨過ぎて薄ら寒くもある。
東野作品ではテーマを強調したいがために、ミステリパートと主人公側とで同系列の問題が平行して描かれることが多いが、この手法もやりすぎるとあざとさが残る。
松宮の存在も、加賀と父との関係を第三者的に描くために使われた感が強く、ミステリパートでの存在感が薄い。
最終的などんでん返しも一応用意されているが、これも今一つ納得いかない。
後半まで不自然なほど姿が描写されないキャラクターがいたので、そちらで話をひっくり返したほうが面白かったのではないかとすら思う。
人情に訴えると言った意味では、作者が用意したどんでん返しのほうが分かりやすくはあるのだが。
水戸黄門のようなラストシーンといい、古さを感じずにはいられなかった作品。
読みやすさはあるし、面白くない訳ではないが、腑に落ちない点は多い。