道尾秀介「龍神の雨」
人は、やむにやまれぬ犯罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。そして今、未曾有の台風が二組の家族を襲う。最注目の新鋭が描く、慟哭と贖罪の最新長編。
71点
相変わらずの上手さが光る道尾秀介の長編小説。
プロットの組み込みと伏線の張り方はまさに一流である。
物語は二組の家族を中心に描かれる。
酒屋で働く蓮と妹の楓、そして死別した母親の再婚相手である睦男が暮らす添木田家。
小学生の圭介、中学生の辰也、父親の再婚相手の里江が住む溝田家。
どちらの家族も実の両親はいなくなっており、血の繋がらない親と暮らしている。
青の炎を思い出させるような序盤から始まる添木田家に対し、辰也の里江への反抗、そして疑念から始まる溝田家。
双方の家出トラブルの火種が燻っている。
そして台風による大雨が続く中、物語は進んでいく。
中盤までで、全貌が明らかになったかに見せる手法。
細かい伏線とミスリード。
この当たりは"ラットマン""シャドウ"と非常に似ている。
プロットは緻密に計算されているし、無駄なシーンも無い。
だが流石に同じ手法を連発しすぎていると感じた。
特に問題に感じたのが"犯人"に関して。
全体のメンバー構成の中で、作者が犯人に選ぶキャラクターが類似しすぎており、すぐに読者に分かってしまう。
犯人について深く描かない事も作者の特徴なのだが、毎回薄っぺらい犯人ばかりだと飽きも来る。
他の人物の描写はとても緻密になされているだけに、狂人的に描かれる犯人像には違和感を受けざるを得ない。
後半までのノンストップな面白さは、今までの作品の中でも一番なだけに残念。
次回作では是非この手法からの脱却を見せて欲しい。