中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

「勝手にふるえてろ」 薄氷の上で熱く踊る松岡茉優!

初恋相手のイチを忘れられない24歳の会社員ヨシカ(松岡茉優)は、ある日職場の同期のニから交際を申し込まれる。人生初の告白に舞い上がるも、暑苦しいニとの関係に気乗りしないヨシカは、同窓会を計画し片思いの相手イチと再会。脳内の片思いと、現実の恋愛とのはざまで悩むヨシカは……。

シネマトゥデイ

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85点

W杯盛り上がってますね。W杯からウイニングイレブン、そして仕事を繰り返しており全然映画が見れておりません。そんな中、人体展に行ってきました。

人体展では実際の心臓や肺などの臓器の展示を見た後に、ブロックで作られたタモリさんの開きを展示するという、アバンギャルドな構成が印象に残っています。実際の臓器をイメージして、タモリさんの内部を脳内補完しろって事ですかね? 

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そんな中でずっと見たかった「勝手にふるえてろ」をやっと見ることが出来ました。その感想です。

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全体的なバランスと松岡茉優

率直に面白かったです。でも意外と際どいバランスの上に成り立ってる映画だなとも思いました。

ヨシカとイチのエレベーターに"二"が乗り込んでくるような、過剰にコメディ寄りのシーンや、1か所だけ入るミュージカルシーン。オフィスでの来留美との百合百合しい耽美なお昼寝のシーン。全体のトーンには統一感が無く、「このシーンが撮りたい」が優先されて繋がっていくような構成は、かなり危険な演出だと思います。

得てしてこういう構成にすると、登場人物もそのトーンに合わせてシーンごとに演じ分ける必要があるわけで「キャラクターに一貫性が無くディテールが浅い!」とか言われてしまうと思うんです。実際、渡辺大知の演技も良かったですが、エレベーターのシーンに関してはキャラクターの整合性が崩れてるなとも思いましたし。

ですが、この映画に関しては松岡茉優の演技が全体に一本ビシッとした芯を通しているので、バラバラのシーンがまとまって見えるんですよね。喜怒哀楽をヨシカというキャラクターの上で、シーンごとに非常によく演じ分けているように感じました。

 感情が急に展開したり、ゆっくり展開したり、爆発したりと演出的には濃い要求が多い映画だと思うんですよね。特に感情変化の中間の演技が要求されるシーンが多い中、見ている人間をヨシカの魅力にグッと引き込むパワーがあったなと。

 

トーンがバラバラなことの副産物

トーンに関しては、町の人との掛け合いがどこまで妄想でどこから現実かを非常にあいまいにしていて、イチの名前を知らない発言から、全部妄想だったと分かるミュージカルシーンという怒涛の展開において絶望感を後押ししていたかなとも思います。

町の人との掛け合いはあきらかに妄想と思わせる内容でしたが、現実のシーンのトーンもかなり揺れがあって、確実に妄想だなと確信できるまでには至りませんでした

それが結構効いてるというか。「確実に妄想だ」とわかって見るミュージカルシーンと、「妄想っぽいけれど、同じようなトーンで"二"や隣人とも話してるし、そういう演出ってだけで妄想じゃないのかも…」と思ってみるミュージカルシーンだと、絶望感が違うと思うんですよね。

 

「リアリティ」と「共感」

後はこの映画をどの程度楽しめるかは「リアリティ」と「共感」が重要なのかなと。ヨシカのキャラクターを「デフォルメ」と感じるのか、「リアル」と感じるかで見え方は大分違いますよね。更にそんなヨシカに「共感」を感じるかどうかも大事かと。

自分の周りにはヨシカ的な要素を含んだ人がいるので、キャラクター造形にはリアリティを感じました。そして自分の中にも妄想癖や完璧主義的な部分があるので、結構えぐられる部分もありましたね。妄想が破壊して孤独になるシーンとかぐっときました。そして人は意外と死なないですし。

でも個人的に一番共感したのは…ラストの"二"なんですよね

「変な人が好き」って、すごい分かります。理解できない、謎だらけな女性って魅力的に感じちゃうんですよね、理屈じゃなく。これってあんまり共感されないですし、映画とかでも好きな理由であんまり語られないんですが、まさかこんな女性による女性の為の映画で出てくるとは…

変な人を好きになって付き合うって、すごく大変だけれどもそれでも好きって感じがラストの"二"の演技から感じて胸をわしづかみにされちゃいました。

全体的に見ても"二"のキャラ造形は良く出来てましたよね。後半、急にキャラクターが代わるっていう意見もあるみたいですが、前半のウザったい感じと後半の真面目で熱い感じって共存するというか、誰の中にもある要素なんじゃないですかね。

 

最後に

だれもがハマる映画じゃないと思いますが、非常に良く出来た映画だと思います。もしかしたら奇跡的なバランスで偶然できた怪作なのかも。

そういえば、ヨシカが劇中で口ずさんでた空耳ってこれですよね。

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レイジ好きとしては「Killing In The Name」が純粋に聞けなくなってしまった空耳ですが、大好きな空耳です。