道尾秀介「球体の蛇」
1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになるのだが…。呑み込んだ嘘は、一生吐き出すことは出来ない―。青春のきらめきと痛み、そして人生の光と陰をも浮き彫りにした、極上の物語。
51点
非常に綺麗にまとまり、読みやすい一冊。
ただ、道尾秀介の初期に感じた「怖さ」が少しなりを潜めてしまった。
もともと道尾作品の同一フォーマット的な作風を脱皮してほしいと思っていたが、あらぬ方向に行ってしまっているようにも最近感じる。
純文学的というか、テーマありきでの作り方というか。
今回の作品のテーマは「嘘」である。
優しい嘘、そして利己的な嘘が一つの事件の裏で絡み合い、友彦の葛藤となっていく。
嘘で守られた世界の象徴のスノードームや小物の使い方は上手いが、あまりにも分かりやすすぎる感も。
サヨのキャラクターは小説ではありがちな設定の美少女。
ただ怖さと脆さが同居したような人物像は平凡だが、その描き方は非常に上手い。
祭りでの事件など、エピソードの作りこみがよくできている。
しかし、その動機となる根幹があいまいなままなのは、放棄している感も否めない。
乙太郎、智子、ナオなど周囲のキャラクターは上手くかけているし、テーマにも一貫性がある。
なのになぜか薄っぺらい。
ミステリ、純文学、恋愛小説、青春小説。
どのジャンルとしてみても、掘り下げがあまりに中途半端で、その割には展開が非常に強引。
ラストのその強引さを逆手に取ったような終わり方は上手いが、全体的にぼんやりした印象の作品。
さらなる脱皮を期待したい。