飴村行「爛れた闇の帝国」
高校2年生の正矢は生きる気力を失っていた。先輩でもあり不良の崎山が、23歳も年の離れた正矢の母親と付き合い出し、入り浸るようになったのだ。学校も退学し、昼間からぶらぶらと過ごす正矢に、小学生の頃から親友同士の晃一と絵美子は心配して励ましてくる。一方、独房に監禁された男が目を覚ました。一切の記憶を失い、自分が何者であるかもわからない。どうやら自分は大東亜戦争まっただ中の東南アジアで「大罪」を犯してしまったらしい。少しずつ記憶を取り戻す男だが、定期的に現れる謎の男によって拷問が始まった…。やがて、絶望の淵にいる正矢と男は、互いの夢の中に現れるようになった。しかし、二人の過去には恐るべき謎が隠されていた!日本推理作家協会賞受賞『粘膜蜥蜴』から1年半…満を持して放つ、驚愕のエンタテインメント。
32点
久しぶりの書評が飴村行。
しかも「粘膜」シリーズではないという渋いチョイスだが、読んでしまったので仕方ない。
主人公は正矢はすさんだ家庭環境の中生きる気力を失った高校生。
母親は先輩の不良とただれた関係となり、親友の晃一と絵美子は気をかける。
その一方、記憶を失った男が独房で目を覚ます。
どうやら大東亜戦争の最中、東南アジアで大罪を犯したらしい。
地獄のような拷問で記憶を取り戻すよう強要される男。
やがて二人の絶望がつながっていく。
現代と過去のシーンが交互に描かれるこの作品。
まずはそれぞれのパートについて。
正矢パートは人物像がとにかくあいまい。
目的の見えない主人公や友人たち。
母親も含めてあまりにリアリティがない。
ずっと同じクラスで仲良くしてきた三人組の名称「ワンダースリー」という名前も苦笑もの。
関係性もその設定がまったく生きていない。
ここでの絶望があいまいなので、物語がしまらない。
監禁されるパートは緊張感ある構成。
記憶が何なのか、そして何故それを思い出させようと執拗に拷問するのか。
緊迫感ある攻防はよく描けている。
しかし、最初の二パートの連動が「夢でのコミュニケーション」というのが興ざめ。
二つの話がどう絡むのかが最大の焦点なだけに、その後の展開もいやな予感とともに想像できてしまう。
また最終的に加速していく最終パートも、人物像の稚拙さや伏線なしでのどんでん返しでかなり苦しい。
超常現象もそれぞれ関係なく、タイプも違うものが複数あり、いくらなんでも不自然を感じる。
ここまで「ヒトモドキ」な思考回路の人物が多い小説も珍しいので、そこに惹かれる人もいるのか・・・。
小学校から高校まで同じクラスで、しかもつるんでいる三人組のリアリティのなさは特にひどい。
「粘膜」シリーズが好評と聞くだけに、最初の出会いがこの小説だったことを後悔。