桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」
子供はみんな兵士で、この世は生き残りゲームで。砂糖菓子の弾丸で世界と戦おうとした少女たち…。稀世の物語作家・桜庭一樹の原点となる青春暗黒小説。
84点
海辺の町で暮らす中学生・山田なぎさ。
彼女は引きこもりの兄と母と三人で、貧しいながらも暮らしている。
そんな彼女のクラスに自分を人魚だと名乗る海野藻屑が転校してくる。
貧しい中で強く生きるため"実弾"を欲しがるなぎさ。
そんななぎさと対照的に、嘘という"砂糖菓子の弾丸"を撃ち身を守る藻屑。
二人の不思議な関係を描いた暗黒青春小説。
冒頭から絶望的な状況が説明される。
そしてその時から遡り、二人が出会うところから話は始まっていく。
物語の合間には、時系列的には冒頭と地の文の間となる、なぎさの独白が挟まっていく。
つまり絶望的な状況となるAの地点に、地の文はかなりの過去から急速に進んで行き、独白は近い過去からゆっくり進んでいく。
この手法を用いた事で、どんな日常のシーンでも悲壮感と緊迫感を漂わせる事に成功している。
貧しさから抜け出すために、お金や地位という実弾を求めるなぎさ。
芸能人の娘でありながら、嘘を振りまき、情緒不安定で子どもの様な藻屑。
そして引きこもりとなって、現実から目をそむけ、一種の悟りを開いているなぎさの兄・友彦。
この三人の登場人物が非常に魅力的だ。
特に藻屑のキャラクターは性格破綻者だが深い悲しみを抱えており、非常に感情移入してしまう設定になっている。
この物語では手法上、藻屑に対して読者がどういった印象を抱くかをコントロールする必要がある。
これは中々難しい事だが、スレスレのラインを作者は見事についている。
また細かい表現も非常に魅力的。
タイトルもそうだが、言葉遣いのセンスが卓越している。
それがこの物語全体を覆う暗さを、ほどよい程度に抑えてもいる。
「こんな人生ほんとじゃないんだ。きっと全部誰かの嘘なんだ。だから平気。きっと全部悪い嘘」
藻屑が必死になって砂糖菓子の弾丸を撃ちまくる。
その姿が痛いほど心に残る、青春ノベルの名作。