道尾秀介「カラスの親指」
“詐欺”を生業としている、したたかな中年二人組。ある日突然、彼らの生活に一人の少女が舞い込んだ。戸惑う二人。やがて同居人はさらに増え、「他人同士」の奇妙な共同生活が始まった。失くしてしまったものを取り戻すため、そして自らの過去と訣別するため、彼らが企てた大計画とは。
75点
道尾秀介は安定している。
これほどまでに作品に安定感がある作家は珍しい。
それほど、どの作品も面白い。
今、聞かれれば、間違いなく好きな作家の一人に入るであろう。
中年同士の妙な共同生活。
そしてそこに入り込む闖入者たち。
五人と一匹の共同生活は面白く、キャラクターも素晴らしい。
特にふざけていながら妙なところで確信を付く貫太郎のキャラクターは特筆もの。
彼はこの作者が得意とする、ミスリードと伏線回収したどんでん返しの中でも重要な役割となっている。
中盤までの群像劇も素晴らしいが、二転三転する終盤の展開も面白い。
オチに関しては個人的に嫌いな種類のオチだが、そのオチを使った作品の中では唯一嫌らしさを感じずに読めた。
それも伏線回収の見事さのなせる技だろう。
ミスリード側のわかりやすい伏線に読者を方向づけて、香らせていた程度の伏線(だがその部分を読んだときには間違いなく伏線と感じた箇所)でひっくり返す。
この作者はこの技術が異常なほど上手い。
これは意外と難しく、薄すぎる伏線だと読者は"卑怯"と感じ、分かりやすいと"オチが読める"と感じる。
このさじ加減が上手いというのは天性の才能なのだろう。
その反面、まったく違う作品たちなのに、どこか同じ印象を受けてしまう事も事実だ。
「ラットマン」「シャドウ」「カラスの親指」とテーマもキャラクターもオチも違うのに、どこかフォーマットめいたものを感じてしまう。
「龍神の雨」「球体の蛇」はこれから読むが、そこで一歩脱皮した姿を見せてもらいたい。