中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

東野圭吾「パラドックス13」

13時13分からの13秒間、地球は“P‐13現象”に襲われるという。何が起こるか、論理数学的に予測不可能。その瞬間―目前に想像を絶する過酷な世界が出現した。なぜ我々だけがここにいるのか。生き延びるにはどうしたらいいのか。いまこの世界の数学的矛盾を読み解かなければならない。

(「BOOK」データベースより)

48点

 

東野圭吾が挑戦する極限状態のヒューマンドラマ。
謎のP-13現象とそれに巻き込まれた人々を描いた作品。

警察で働くキャリアの兄とノンキャリアの弟。
宝石強盗を追っていたはずの弟は不意に人が誰もいない世界に放り出される。
政府で認識されていたP-13現象とは何か。
殆どの人が消えた世界で、残された人はどう生きていくのか。

東野圭吾が挑戦したSFサバイバル。
この挑戦自体は面白いと感じた。
あくまで東野圭吾らしく書かれた「漂流教室」には独特の味わいがある。

しかし一番の問題点は謎となるべきP-13現象の核が最初にネタバレしている部分にある。
普通の世界でP-13現象のタイミングで兄弟が何をしていたかを最初に書ききってしまっている為、なんの謎も無くなってしまう。
核心以前の兄弟を書いた後にP-13現象後の世界を書き、登場人物がP-13の核心に触れたタイミングで、普通の世界で何があったかを書くのが普通ではないか。
核心部分の記憶を主人公は失っているのだから、そうすることできちんとオチが着くと思う。

また自分はあまり気にならなかったが、SF部分の詰めの甘さが気になる人もいるだろう。
ハンドルのゴム部分が消えた車や、服も一緒に無くなった理由が説明された時点で個人的には満足。
ヒューマンドラマこそ見所であるから、SFディテールの整合性まで求めなくともいい気はする。

ヒューマンドラマとしてはなかなか面白い。
気が狂ってめちゃくちゃな事をする人がでるサバイバルものより、寧ろリアルにすら感じた。
衝撃的ではないのでそこはエンタメとしてどうかという気もするが。

またキャラクターはなかなか上手く描けている。
兄弟の思考の違いはそれぞれ既存の世界と人が消えた新しい世界との差に感じて面白い。
特に兄の理知的でリーダーシップのある性格はなかなか魅力的。
周囲のキャラクターもサバイバル物お決まりの布陣だが、おしなべて良く描けているとは思う。

ただラスト付近で兄が言い出すこの世界で生きていく方法は、それまでの言動からするといきなりな印象で、チームを二分する為の仕掛けを感じてしまった。

新しい挑戦としてはなかなか面白かったし、リアリティある描写は想像を掻き立てられた。
その分ネタバレとオチの弱さが際立った感もある。
ただ是非、東野圭吾には新ジャンルにこれからも挑戦して欲しいと思わせるには十分な出来だった。