中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

東野圭吾「黒笑小説」

作家の寒川は、文学賞の選考結果を編集者と待っていた。「賞をもらうために小説を書いているわけじゃない」と格好をつけながら、内心は賞が欲しくて欲しくてたまらない。一方、編集者は「受賞を信じている」と熱弁しながら、心の中で無理だなとつぶやく。そして遂に電話が鳴って―。文学賞をめぐる人間模様を皮肉たっぷりに描いた「もうひとつの助走」をはじめ、黒い笑いに満ちた傑作が満載の短編集。
(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

54点


すさまじくバラエティーに富んだ、一編20~30ページで集約された13の短編集
前二作「怪笑小説」「毒笑小説」は完全な短編集だが、「黒笑小説」には連作が存在する。
ベテラン作家の寒川心五郎が「もうひとつの助走」「選考会」。
文学新人賞の受賞者である熱海圭介が「線香花火」と「過去の人」に登場する。

どちらも文学界の現状、特に文学賞について強烈に皮肉られている。
"無冠の帝王"と呼ばれ、賞レースに不条理なほど落選した、東野圭吾自身を描いているかのような作品。
最も"容疑者Xの献身"以降はその不名誉なニックネームも消えうせたが。

他の短編もブラックジョーク的な作品が多い。
だが視点はなかなかユニークで作者の引き出しの多さを伺わせる。

粒子単位の成分が見えてしまう男の話「みえすぎ」。
売れないお笑いコンビが、謹厳実直で鉄面皮なホテルマンから「笑い」と取ろうと試行錯誤する「笑わない男」。
容姿に恵まれない女子大生が、奇跡の一枚と呼ぶに相応しい写真を手に入れる「奇跡の一枚」。
このあたりの作品は下らなすぎず、程よいユーモアと面白い視点で描かれ、なかなかの良作と言える。

全体的に下らない話が多いが、それは作品のテーマ通り。
何かが心に残るわけではないが、さらっと読めてしまう一冊。
だが作者のレベルを考えると、もう一工夫出来たのではないかと思ってしまう。