舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日」
迷子捜し専門のアメリカ人探偵ディスコ・ウェンズデイの目の前で六歳の梢に十七歳の梢が侵入。真相の探究は全てを破滅へと誘う。謎の渦巻く円い館と名探偵の連続死。魂を奪われた少女たちと梢を苛む闇の男。真実なんて天井にぶら下がったミラーボール。眩い光にダンスを止めるな。踊り続けろ水曜日。「新潮」掲載に1050枚の書き下ろしを加えた、渾身の長篇小説。
(「BOOK」データベースより)
52点
舞城至上最長となる分厚い上下巻で語られるのは、エスエフなのか形而上学なのかミステリなのかハードボイルドなのか分からない何か。
ありえない展開の連続と凄まじい伏線の数々、圧倒的な筆力で描かれた新しい物語。
ハードボイルドな迷子専門探偵・ディスコ・ウェンズディ。
彼は日本で見つけた迷子・梢と共に暮らしている。
そんなある日、梢の体に未来から来たと言う17才の梢が乗り移る。
それを切欠にウェンズデイの日常は大きく変化してゆく。
スタートからエスエフチックな物語。
しかし、未来の梢からパンダラヴァー事件、そして物語の中心となるパインハウス事件へと進むにつれ、物語は凄まじい勢いで拡大していく。
中盤の見所はパインハウスでの暗病院終了が殺害され、名探偵が大量に集まる謎の事件。
推理を失敗した名探偵は目を箸で貫き死亡していく。
次々に繰り広げられる、一つの殺人事件に対する名探偵の違った推理。
このパートは全体の中でも少し冗長に感じた。
図解を多く含んだ物理トリックの連続は飽きにもつながる。
そして下巻へと入ると話はさらに拡大。
哲学的、形而上学的世界観や未来、過去、ひいては宇宙に対しての認識の話へと移る。
いびつで青臭い舞城的な愛はここでも大きく語られ、物語を牽引していく。
全体を通して図解が多く、文章だけで表現できる物語の限界に挑戦しているようにも感じるこの作品。
広げた風呂敷をあえて畳まず、広げ続けた末のエンディングにはなぜか少しの開放感も感じた。
キャラクターは魅力的で水星Cや大爆笑カレーなど突き抜けていて面白い。
自分の世界を唯一と信じる名探偵たちが推理をはずしていく流れも、斬新で面白かった。
また急に挟まるバイオレンスやエログロ系描写も物語の緩急を上手くつけていたように感じる。
しかし、とにかく長い。
話はどんどん読者の手を離れ、光速で拡大してくなか、置いてけぼりのままで読むにはかなりの量だ。
また自身の作品からのオマージュも多く、全ての読者が楽しめるわけではないだろう。
正直に言ってお勧めできる作品ではないが、唯一無二の作品である事は間違いない。
作者が好きなように自身の世界観を爆発させた作品で、一定の読者の支持を得られるというのは凄まじい。
それもこの作品にこめられた熱量を読みながら体感できるからであろう。