中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

米澤穂信「夏期限定トロピカルパフェ事件」

小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは“小佐内スイーツセレクション・夏”!?待望のシリーズ第二弾。

(「BOOK」データベースより)

82点

 

これは感想が非常に難しい。
前作で星5をつけたが、確実に前作より面白い。
いや、前作よりも面白いというか、前作が本作の前降りとして見事と言うべきか。

 

新進気鋭と言われる作家は正直こうあるべきだと思う。

現状に満足せずに想像を越えた方向へ打破する。

シリーズものでの"安定した関係性"を良しとしない。

「蘆屋家の崩壊」での猿渡と伯爵の関係を個人的には思い出した。

(関係は無いが、道尾秀介という完璧に限りなく近い作家が、唯一足りない部分がこの要素だとも思う)

 

今回の作品はそういった意味で、ある意味見本的な上手さを持っている。

探偵癖のある小鳩君、復讐好きの小山内さん。

二人は前作と同じく小市民となり、自分の悪癖を押さえ込もうと努力する。

舞台は一年後の高校二年の夏。

前作から一年と少しが過ぎ、二人の周りにはまた小市民となるための試練が訪れる。

 

この作品はやはりラストが秀逸。

前作が短編集だったのに対して、今回が連作短編な事もその演出に拍車をかけている。

ラストで提示された"答え"は衝撃的なようで、どこか凄いリアル。

高校生の一年間という期間は、小説で読めばシリーズ間で過ぎてしまうけれど、本人達にとっては色々考え悩む一年間だという事が分かる。

決して不自然な衝撃ではない。

シリーズ小説と言うフォーマットで考えると衝撃的でも、高校生の一年間を考えれば自然なのかも知れない。

 

キャラクターの若干の変化や、展開の強引さ、裏切られた感覚。

こんな事すら作者の手の上なのではないかと感じてしまう作品。

ここから秋期はどう展開するのか?

否が応でも気になる作品である。