中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

舞城王太郎「NECK」

首で分断された想像力が、お化けを作りだすんやで―幼少体験をもとにした「ネック理論」の真実。首から下を埋められた三人の、地獄の一日。山奥に潜む恐怖の首物語。首の長い女の子が巻き込まれた殺人事件…映画原案、舞台原作、そして書下ろしを含めた、4つの「ネック=首」の物語。

(「BOOK」データベースより)

71点

 

脚本三篇と書き下ろし小説を含む「首」にまつわるホラーテイストな話。
脚本形式になると、句点や改行の少ない舞城節は当然無くなるが、それでも彼の独自性は発揮されている。

強調フォントやイラストなど、常に小説の枠組みから逸脱した新しい作品を求める作者の好奇心が伺える。

「a story」
百花は首の骨が人より一つ多いだけの、他は普通の女の子。

しかし、バイト先の整体師から首の骨が八個から九個とさらに増えていることを指摘され、飲み会では首から人が出てくる怪現象が発生。

自宅には謎の男二人が現れ、首の骨を探せと桃花に命令する。

彼女は謎の二人組を追って福井に向かい、そこで変わり者の博士と出会い、真相を追い求めていく。

 

書き下ろしなので、最も通常の舞城作品に近い印象。

句点や改行は少なく、当然のように福井に移動し、破綻するギリギリの位置で物語を進める。

"首の道"をめぐっての騒動は面白いが、やはり時に難解で説明は最小限。

結局なんだったのかという雰囲気は残るが、舞城の文体とキャラクターが好きならば展開のテンポのよさで面白く読めるだろう。

 

「the original」
仲間の復讐として、山中で愛媛川を首まで埋めた翌朝、愛媛川を掘り起こすとそこには謎の女が一緒に埋まっていた。

そして気がつくと首まで埋められている酒井、小山、井頭の三人。

ここから恐怖の夜がスタートする。

 

軽いノリのバイオレンスな描写からスタートするのはとても舞城らしい。

埋められてからも含めて三人の少しコミカルでリアルなやり取りはかなり良く出来ている。

ホラーとしても秀逸で、謎の女の恐怖を煽るシーンと、急に肩透かしを食らったように謎の女が人間くさくなるシーンのバランスが絶妙。

正直、全短編の中でもずば抜けて面白かった。

首だけ出ている状態の描写もかなりリアルで、飛ばされたビニールシートが頭にかぶるだけで死に掛けたり、熱中症で失神したり、携帯を取るため四苦八苦したりとくだらないようで、実際そうなったらしてしまうような事をついてくるあたりの観察眼の鋭さには舌を巻いた。

また舞城氏のイラストもなかなかいい味を出しており、絵コンテのラフとしてかかれたイラストが想像力を補完し、擬似舞台鑑賞体験も出来る。

イラストは段々上手くなっているようにも感じ、鳴海丈にも似た独特のタッチは迫力があって素晴らしい。

ラストのSAW的なオチも含めて素晴らしい脚本となっている。

 

「the second」
キャンプに来た大学生たちの前に謎のチェーンソーを持った男が現れる。

その男は車を奪って逃走、途方にくれた彼らは徒歩でキャンプ場を目指す。

しかし、途中で聞こえた子供の声にひきつけられ向かった先には、首まで埋められた三人の子供がいた。

 

「the original」 と少し似た設定のホラー。

前作と比べると登場人物の役割分担がはっきりしない部分や、恐怖を煽るために複雑化しすぎた構成が気になった。

奇想天外な展開はいつもの事だが、シンプルな「the original」 で直球の面白さを見た後だけに、無駄な部分が多くなっているのは気になる。

しかし、映像化も含めた脚本と考えると、襲われるシーンなど動的な恐怖の多いこちらの脚本にも一部の長はあるか。

随所に挟まれるイラストはかなり素晴らしく、緊迫感を演出している。

特に夜のシーンで急に黒地に白文字にするあたりの手法はなかなか雰囲気が出ていた。

個人的には館見取り図含めたイラスト図解や小手先の手法を使った小説は好きではないが、舞城の破天荒さと合わさるならならばありとも感じた。

 

「the third」
人間の恐怖が幽霊を具現化すると信じる大学準教授・杉奈は"ネックマシーン"なる怪しげな装置で、幽霊の存在を実証しようとする。

協力者として巻き込まれた首藤や杉奈の幼馴染である越前魔太郎を巻き込んで、想像し得ない展開へと進んでいく。

 

映画の脚本となった作品。

ホラーの要素とコメディ、ラブストーリーの要素をはらんでおり、軽快な作風となっている。

杉奈の自由奔放なキャラクターと、彼女のせいで布団で寝れない恐怖症を患っている魔太郎の存在が物語を引き立てている。

だれでも乳白色の風呂の中を想像し怖がった事があるだろうが、それを"バスクリンフォビア"と名づけるあたりのセンスは素晴らしい。

そしてその発想から生まれた、首だけを外に出して箱の中が見えないネックマシーンという装置も面白い。

極度の怖がりで、ベッドで寝れないし、布団でも寝れない魔太郎が、ホラー小説家というのも恐怖の本質や人間の本質を突いていてなかなかいい設定。

しかし後半のあまりにも奇想天外な展開や、規模を広げすぎてしまう舞城氏の方向性が前半のシンプルで面白いプロットを破壊してしまっているのが残念。

 

個人的には色々な方向性の舞城作品を読んで感じたのは、"イラストは意外とあり""図解が必要なパズル的トリックは今ひとつ""話を広げすぎると急に陳腐になる"といったポイント。

いずれも舞城氏の個性だが、シンプルでほんの少し破綻している程度の作品のほうが面白いと感じた。