米澤穂信「クドリャフカの順番―「十文字」事件」
望の文化祭が始まった。何事にも積極的に関わらず“省エネ”をモットーとする折木奉太郎は呑気に参加する予定だったが、彼が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。十文字と名乗る犯人が盗んだものは、碁石、タロットカード、水鉄砲―。この事件を解決して古典部の知名度を上げよう!目指すは文集の完売だ!!千載一遇のチャンスを前に盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は「十文字」事件の謎に挑むはめに!米沢穂信が描く、さわやかでちょっぴりホロ苦い青春ミステリ。
(「BOOK」データベースより)
52点
古典部シリーズ第三弾。
前回の「愚者のエンドロール」直後である文化祭の話。
今回一番の違いは、視点が増えた事。
主人公の折木奉太郎だけでなく、同じ古典部の福部里志、千反田える、伊原摩耶花の視点が追加されている。
それぞれの視点がトランプのマークで区別されるあたりは、凝っていてとてもいい雰囲気。
個人的には自然にトランプと人を結び付けさせてからの、叙述トリックなども疑ってしまったが…。
この視点の追加により、文化祭を様々な方向から眺める事が出来、文化祭の雰囲気と盛り上がりを強く感じる事が出来た。
その反面、一人称視点がある事でそれぞれのキャラが前二作で持っていた深みも公開してしまう事になったのは残念。
福部里志というキャラクターの奔走や切ない思いはとても良く、前作までのイメージを保つことが出来たが、千反田に関しては謎めいた部分が薄れて、浅いキャラクターになってしまった感も。
摩耶花は前作まででも他のメンバーとのチグハグさを感じていたが、今回はより如実になっていた。
勝気で怒りっぽく小柄で正義感あふれて、同人即売会に行く漫画研究会の女の子。
他のキャラの役割がはっきりとしているだけに、迷走しているように感じた。
肝心の事件に関してはそれほど大きなトリックが隠されてもおらず、真相もさほど納得はいかない。
折木の推理も、探偵が大勢いる状況で、どの部活が襲われたかをチェックしていけば、誰かしらたどり着けるように感じた。
また、"姉"という相変わらずな都合の良い超存在はあるが、そこはそういうものとして受け止めよう。
不自然なところもあるが、学園祭の雰囲気は楽しめたし、福部や犯人が残す切ないメッセージは心に響いた。
次の作品で殻を破っている事を期待したい。