舞城王太郎「熊の場所」
何が飛び出すか誰にもわからない最強の純文学。圧倒的文圧で疾走する表題作『熊の場所』を含む全3編を収録。
(「BOOK」データベースより)
84点
久しぶりに読みなおした舞城節炸裂の短編集。
凄まじい失踪間を持って繰り広げられるストーリーは、浅いようで深く心を抉る出来。
ミステリ的な要素を持ちながら、純文学への移行が伺える。
表題作、"熊の場所"は切られた猫の尻尾を同級生のランドセルに発見してしまった少年の話。
子供の持つ分裂症気味の思考回路と、舞城文体がぴたりと当てはまり、絶妙の味わい。
"恐怖を消し去るには、その源の場所に、すぐに戻らねばならない"という行動原理と、父の話も面白い。
ラストに対してミステリ的な手法での結末を望まないようプロットされた方向性と、ラストの相性も良く、最後までスピード感を持って読み込める。
"バット男"は駅前にバットを持ってうろつく"弱者"バット男から始まるストーリー。
はじめは個人を指したバット男が、いつの間にか社会システムや、そのはけ口としての意味合いに変わっていく流れも面白い。
壊れていく梶原の描写や徹底的に客観的である主人公など、描写やキャラクターも魅力的。
軽薄さをリアルさとして描く文体が、程よくテーマの重さなどとも符合し、三作品の中では一番面白く読めた。
"ピコーン"は女子高生のエログロな恋愛物。
過剰な女子感あふれる文体のわざとらしさも、好みは分かれるが自分は嫌いではない。
前半の恋愛物としての構成と後半のミステリ展開を一気読みさせるスピードは圧倒。
同じ内容を他の作家が書けば三倍以上の厚さになるだろうが、内容量ではそれほど変わるものなのか。
途中のフェラで彼氏を更生させるというくだらなさは、愛情の深さにもつながる面白い展開。
ひとりごっつをガッツリと引用するなど、やりたい放題の文章に、狙い済ましたかのような鋭い視点を入れ込む手法も読んでいてハッとさせられる。
重いテーマと詰め込まれた内容を凄まじいスピードで読ませる本作。
独特の手法は好みが大きく分かれるだろうが、自分は非常に面白く読めた。