道尾秀介「骸の爪」
ホラー作家の道尾は、取材のために滋賀県山中にある仏像の工房・瑞祥房を訪ねる。彼がその夜見たものは、口を開けて笑う千手観音と、闇の中で血を流す仏像。しかも翌日には仏師が一人消えていた。道尾は、霊現象探求家の真備、真備の助手・凛の三人で、瑞祥房を再訪し、その謎を探る。工房の誰もが口を閉ざす、二十年前の事件とはいったい。
(「BOOK」データベースより)
75点
「背の眼」に続く真備シリーズ第二弾。
前作で気になった欠点は目減りし、うまく纏めた印象。
今回は瑞祥房という仏像の工房が舞台。
そこで起こる奇怪な現象と、失踪する仏師。
その謎を解くため、真備と凛、道尾が奔走するストーリー。
前半は仏像に関しての知識と伏線の種植えが中心。
道尾秀介の作品は読者に"切りかかるタイミング"が重要なので、この辺りの冗長さは仕方ないのか。
だが前作に比べると、キャラクター造形の面白さ、そして一元的ではない謎の散りばめ方のおかげで、飽きずに読むことができる。
キャラクターでいえば、とぼけた唐間木老人や住職などなかなかにいい味を出している。
謎に関しては、現在起こっている事件以外に、二十年前の事件が話に上がってくる。
しかし、それと関係があるのかわからないレベルで、色々なキャラクター達にも謎が付きまとう。
女性のように見える松月と謎の外出、何かを知る先代、怪しげな仏師達。
このうちいくつかはミスリードに使われるが、この辺りの謎の散りばめ方が非常に上手い。
後半に入ると話は加速していく。
このシリアスな展開は前作と同じくとても面白い。
そして最終的なオチの付け方も、伏線をうまく回収していて見事。
二回、三回と切りつける書き方は、現在の道尾秀介のフォーマットに近い印象を受ける。
ご都合主義的に話が進むところや、真備の推理が真相まで飛躍して辿り着くところなど気になる点もあるが、しっかりと構築された世界観の中ではさほどの問題に感じない。
また今回は道尾秀介作品には珍しく、しっかりとした"トリック"が仕組まれている。
どんでん返しの中にこういった虚を突くトリックを入れ込むことで、他の作品とは違った本格派の雰囲気も醸し出せている。
三作目の「 花と流れ星 」も含め、安定感のある関係を築きつつあるこのシリーズ。
次作ではぜひ関係を進展させるような事件で、更なるシリーズとしての飛躍を見せてもらいたい。