中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

道尾秀介「片眼の猿」

俺は私立探偵。ちょっとした特技のため、この業界では有名人だ。その秘密は追々分かってくるだろうが、「音」に関することだ、とだけ言っておこう。今はある産業スパイについての仕事をしている。地味だが報酬が破格なのだ。楽勝な仕事だったはずが―。気付けば俺は、とんでもない現場を「目撃」してしまっていた。
(「BOOK」データベースより)
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82点


今回はハードボイルド色の強い、"干支シリーズ"の道尾作品。
ミスディレクションと伏線の巧妙さと言う作者のいい所を出しながらも、他作品とは少し違った大味さもあり面白かった。

主人公・三梨は私立探偵。
音に関しての特殊な能力を持つ男が、産業スパイとして受けた仕事の最中に"事件"の現場を聞いてしまう。

まず今回の作品ではキャラクターの良さが目立つ。
漫画的なほどディフォルメされたキャラクターは今までに無い突き抜けた印象。
活舌の悪い親父や不思議な双子、そして謎に満ちた女性・冬絵。
重いテーマも内包した作品の中で、軽快に動くキャラクター達は絶妙の働きをしている。

序盤のミステリアスな下りから、スラップスティックな後半への流れも素晴らしい。
そして、いつもしてやられるラストの大仕掛けなひっくり返し。
ともすれば冗長さを感じることの多い道尾作品の中では、最も軽快に読むことが出来た。

今までのイメージで言うと東野圭吾に近い印象だった作者だが、今回は伊坂幸太郎の良さも取り込んだ雰囲気。
安定感の上に乗せるキャラクターや事件は、これくらい大味なほうがいい気がする。
序盤の"犬は何故鼻が利くか"の話や、"片目の猿"の話など細かい所も面白く出来ている。
ご都合主義的なまとめ方が気になる人もいるだろうが、これはこれで素晴らしい出来だと思う。
作者の暖かい人間像も光る秀作。