米澤穂信「ボトルネック」
恋人を弔うため東尋坊に来ていた僕は、強い眩暈に襲われ、そのまま崖下へ落ちてしまった。―はずだった。ところが、気づけば見慣れた金沢の街中にいる。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。どうやらここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。
72点
作者がデビュー前から暖めていた作品。
十代の終わりに考えたネタだというが、その非凡さに感服しつつも、いかにも十代の発想といった所も感じられる。
恋人の弔いのために訪れた場所で、主人公のリョウはパラレルワールドに迷い込んでしまう。
その世界は元の世界と一点だけが違う。
リョウがいない代わりに、元の世界では生まれる前に亡くなった姉・サキがいた。
SFが物語の根幹にあるが、そこについては作者は深く言及していない。
あくまでも舞台装置としての役目にとどめ、"世界の秘密"や"どうやって来たのか"などのSF展開には全く持っていかない。
その事が功を奏し、思い切りがよく独創的な物語に仕上げている。
性格の全く違う、姉と弟。
その存在が異なるだけで、世界はいろいろな違いを見せていく。
序盤はその世界の違いに焦点が当たるが、その後の展開が読めなかった。
恋人の死の真相を暴く事がメインなのか?
元の世界に戻る事がメインなのか?
しかしメインは全く違うところから現れる。
考えてみると、全てがそのラストへの伏線になっていた。
ありえない世界だからこそ、普通に生きていては気づかない事実が確定してしまう。
しかもパラレルワールド自体は日常に溢れているので、余計その事が浮き彫りになる。
痛烈すぎるラストは好みが別れるだろう。
しかし学生時代、むしろそれからも誰もが疑問を抱えながら、絶対に答えの出ない問題を、舞台装置一つでここまで浮き彫りにするアイデアは素晴らしい。