中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

道尾秀介「花と流れ星」

死んだ妻に会いたくて、霊現象探求所を構えている真備。その助手の凛。凛にほのかな思いをよせる、売れないホラー作家の道尾。三人のもとに、今日も、傷ついた心を持った人たちがふらりと訪れる。友人の両親を殺した犯人を見つけたい少年。拾った仔猫を殺してしまった少女。自分のせいで孫を亡くした老人…。彼らには、誰にも打ち明けられない秘密があった。

(「BOOK」データベースより)

Trial and Error

71点

 

「背の眼」「骸の爪」に続く真備シリーズ第三作 …という事を知らずにいきなり読んでしまった。

だがこの作品だけでも十分楽しめる作りになっており、それほどの問題は感じなかった。

内容は「流れ星のつくり方」「モルグ街の奇術」「オディ&デコ」「箱の中の隼」「花と氷」の五作からなる連作短編集。

 

主人公は真備、凛、道夫の三人。

それぞれのキャラクターと役割分担は非常に上手く出来ている。

この連作の中では凛と道夫の視点で物語が描かれているので、ここをカッチリ作れている事は素晴らしい。

 

少しとぼけたキャラながら、時に芯を付く道夫。

普通の女性らしさとタフさを持ち合わせている凛。

そしてものぐさながら名探偵ポジションの真備。

この少し古くも王道のトライアングルが、ホラー色が強く突飛な事件と対比して、物語の重心を低くしている。

 

以下、いくつか短編の寸評。

 

「流れ星のつくり方」

凛と少年との唐突なやり取りから始まる、少し不気味で、少し切ない物語。

 

伏線が珍しく露骨で分かりやすかったが、そこまで気にならなかった。

途中までは"足"に持っていく伏線を感じたが、こちらはお得意のミスリード

ちゃんとミステリの手法を噛ませた上で、不思議で切ない方向に持っていくのはさすが。

道夫秀介ならではのやさしい視点の溢れた上質な短編。

 

「モルグ街の奇術」

道夫と真備がバーでであった男は、超常現象を否定する奇術師だった。

彼は自分の右腕を消したマジックの種を明かして見ないかと、賭けを持ち出す。

 

奇術師が自分の腕を消失させた、過去のトリックにまつわる話。

道夫の狼狽っぷりと、真備の名探偵ぶりが対比して面白い。

事件自体は小粒で、トリックも比較的分かりやすい。

最終的などんでん返しはあるが、道尾秀介らしくない投げっぱなしな終わり方。

このらしくなさが、ともすればフォーマット的な彼の小説に開放的な雰囲気を持たせている。

 

「オディ&デコ」

"子猫を殺してしまった、その霊に取り付かれている"そんな悩みを抱えた少女が真備の元に相談にやってくる。

風邪でダウンした真備の変わりに、道夫と凛が捜査に乗り出すことに。

 

子供の残酷さ、そしてそれを否定するような作者の優しい視点が面白い。

オチはそれほどでもないが、人間を上手く書いている作品。

 

今回は全体を通して小粒の事件が多い。

ホラー色も無く、独創性もそれほど高くない。

しかし、心に色々なものを抱えた霊現象探求所のメンバーと依頼者のやり取りは人間ドラマとして面白い。

ミステリはそれに対してのエッセンスと言ったところか。

 

短編のゲストが依頼者だったり、街でであった人であったりと多彩な事も、飽きさせない要因となっている。

またビジュアル的なイメージが着きやすい作品なので、実写にしても面白そうである。

「背の眼」「骸の爪」も是非読んで見たい。

そう思わせるには十分な作品であった。