桜庭一樹「推定少女」
とある事情から逃亡者となった“ぼく”こと巣篭カナは、逃げ込んだダストシュートの中で全裸の美少女・白雪を発見する。黒く大きな銃を持ち、記憶喪失を自称する白雪と、疑いつつも彼女に惹かれるカナ。2人は街を抜け出し、東京・秋葉原を目指すが…直木賞作家のブレイク前夜に書かれた、清冽でファニーな成長小説。幻の未公開エンディング2本を同時収録。
(「BOOK」データベースより)
48点
相変わらず思春期の心情を書くのが上手い。
というより描写が非常に丁寧だ。
この物語は主人公・巣篭カナと、記憶喪失を自称する少女・白雪と逃亡記である。
二人は何から逃げているのか?
それは警察からだったり、社会からだったり、思春期からだったり。
今までの主人公+不思議な少女というフォーマットを完全に踏襲しながら、「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない 」「少女に向かない職業 」とは異質な作品に仕上がっている。
ただ思春期の少女を描くと言う物語で主人公達も似ているとなると、比較論で見られてしまう側面も否めない。
そして比較してみると「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない 」には、作品としての面白さに関しては及ばないと言うのが印象。
ただ描写に関しては三作品の中で最も優れているようにも感じた。
思春期特有の何と戦っているか分からない感情。
そして戦っていたはずなのに、急に気楽になるような瞬間。
そんな言葉に出来ないはずのものを、作者は見事に描写している。
今回は逃亡劇であり、そして少しSFであり、ミステリでは無い。
主題としては初めて正面から"思春期"と向き合っている。
それが収拾の付かなさに落ち込ませてしまったのかもしれない。
もちろん意図的な感も否めないが。
ラストのパターンが分かれることに関しては賛否両論あるだろう。
個人的には"成功してこそ飛び道具はカッコいい"と思っているので、手法云々以前に、意味合いが見出せなかった時点で結論は出ているかと。
謎を残す事で読後感にいい影響を及ぼす事もあるが、いくらなんでも謎だらけすぎる。
パターンを分けるなら、一つは完全に謎を解いたラストも欲しかった。