小林泰三「ΑΩ」
旅客機の墜落事故。乗客全員が死亡と思われた壮絶な事故現場から、諸星隼人は腕一本の状態から蘇った。一方、真空と磁場と電離体からなる世界で「影」を追い求める生命体“ガ”は、城壁測量士を失い地球へと到来した。“ガ”は隼人と接近遭遇し、冒険を重ねる…。人類が破滅しようとしていた。新興宗教、「人間もどき」。血肉が世界を覆う―。日本SF大賞の候補作となった、超SFハード・アクション。
(「BOOK」データベースより)
68点
論理を重ね、未知の生命体を登場させ、作ったものは明確な「ウルトラマン」。
これは小林泰三がSFとして全力で描いた「ウルトラマン」そのものである。
飛行機事故の凄惨な遺体置き場のシーンから物語は始まる。
そこで遺体として安置されていた男・諸星隼人が妻の前で謎の復活を遂げる。
突然シーンは変わって、電磁波で構成された宇宙の彼方。
"影"を殲滅するように一族から命じられた"ガ"は影を追って地球へ向かう事となる。
寄生獣のようなリアルさで描かれた二つの知的生命体の出会い。
そして巨大な生命体として地球の生物を取り込む影を殲滅するため、"ガ"は隼人の肉体を戦闘向けに変化させる。
戦闘に不必要な循環器系は省略されたため、数分しか戦う事は出来ない。
色素は必要ないため、銀色に近い体色となる。
目をガードするため、カバーが付けられる。
声帯は変化し、「シュワッ」「ジュワッ」「ダッ」などの声を出す。
…完全にウルトラマンだ。
ここまで読んで、初めてこの物語の全体像が掴めてきた。
もちろん、宇宙の知的生命体に人間の倫理は通用しないので、正義の味方な訳ではない。
100m以上の巨大な生物が暴れるので、地上の建物は破壊され、凄惨な事となる。
スペシウム光線を意識したような高温度のプラズマを放てば、隼人の体も破壊され、周囲も一瞬で消滅する。
くだらなさが漂う側面と、グロテスクでリアルな描写。
その対象性が最後まで付きまとい、他には類を見ない凄まじいオリジナリティを出している。
分かりやすさを排除している側面もあり、手放しに面白かったとは言えない。
だが個人的には試みとして面白かったように感じた。