伊藤たかみ「八月の路上に捨てる」
暑い夏の一日。僕は30歳を目前に離婚しようとしていた。現代の若者を覆う社会のひずみに目を向けながら、その生態を軽やかに描く。第135回芥川賞受賞作ほか1篇を収録。
51点
正直、芥川賞にはあまり期待していない。
まぁ設立者の菊池寛自身が、その"商業性"を認めているし、純粋な賞として見るべきではないのであろうが。
そういった意味では綿矢りさ、金原ひとみといった話題先行で作品レベルが著しく低い作品の受賞も頷ける。
そんな芥川賞の受賞作品。
タイトルは非常に好みのタイトルだ。
安っぽくなく、それでいて想像力を喚起させられる。
八月末のまだねっとりとした暑さが残るある日。
トラックで自動販売機補充するアルバイトをしている敦。
そんな仕事を今日でやめて、トラックを降りてしまう、年上の女性・水城。
敦は30歳の誕生日である明日、知恵子との離婚届けを提出する。
トラックの中で離婚経験のある彼女に、その話を語りだす。
今の描写と過去の描写が行き来する中で、男女の恋愛を中心として話は進んでいく。
リアルな30才の恋愛、そして結婚や別れが鮮明に描かれ、痛痒い。
敦と千恵子の惹かれ方、すれ違い方は自分のことのように感じてしまう。
別れると決めた途端、別れなくてもいいんじゃないかという位、話がかみ合って上手くいく。
でも別れるのを撤回しても、またお互いが傷つけあうだけになる。
そんな恋愛の細かいリアリティはよく出ていると思う。
まぁ、恋愛小説を殆ど読んでいないので、この程度当然の事なのかも知れないが。
誰しもそれぞれの立場があり、現代社会的な悩みを抱えている。
そしてそれを淡々と描き、大きな山も無く終わる。
こういった作風は少し古く、そして非常に多いと思う。
この作品もその枠から外れず、心を大きく揺さぶるような事は無い。
それが好きな人もいるのだろうが、自分としてはどう楽しんでいいのか分からなかった。
綺麗にまとまっているし、"路上に捨てていく"描写も面白いと思ったが、結局この話は何だったのかという何とも言えない後味がある。
これを今っぽい、お洒落、深みがあると取るのか、ダイナミズム、エンタメ性に乏しいと取るかはその人次第であろう。
この作品には短編「貝からみる風景」も収録されているが、印象はほぼ同じ。
出来で言えば「八月の路上に捨てる」より、纏まりが無い印象。