中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

白井智之「人間の顔は食べづらい」

「お客さんに届くのは『首なし死体』ってわけ」。安全な食料の確保のため、“食用クローン人間”が育てられている日本。クローン施設で働く和志は、育てた人間の首を切り落として発送する業務に就いていた。ある日、首なしで出荷したはずのクローン人間の商品ケースから、生首が発見される事件が起きて―。異形の世界で展開される、ロジカルな推理劇の行方は!?横溝賞史上最大の“問題作”、禁断の文庫化!

(「BOOK」データベースより)

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45点

特殊設定ミステリって外れが少ないって言ったんですが…いやぁなかなか微妙でしたね。やっぱり世界観や設定の作りこみが上手いからこそ、このジャンルって生きてくるんだなと痛感しました。

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人以外に感染する致死性ウイルスが蔓延し、菜食主義者が増えた世界。肉を食べることに恐怖感を抱く人々は、動物性タンパク質が足りず栄養失調になっていった。

そんな中、日本の冨士山という政治家が、クローン人間を育て食べるという凄まじいビジネスを立ち上げる。非難も受けつつその豪腕で法案含めて成立させ、クローンを育てるプラントを日本中に建設。日本に好景気を呼び込む事に成功する。

クローンたちは人権の無い食用生物として育てられているゆがんだ世界。主人公の柴田和志はそんな中、作業員としてプラントで働いていた。

自身の体細胞から作ったクローンのみ摂取が法律で許されているが、顔は生理的嫌悪感からか食べないため、和志は顔を切断する仕事を行っていた。

 

そんな中、冨士山のもとに届いた食用肉に顔が同梱される事件が起こり、作業者である和志に疑いの目が行く。

 

…やっぱりSF的な設定って、リアリティが大事ですよね。破綻してたり、自由でもいいんですが、中途半端な設定は苦手です。

ウイルスが流行ったからって、人肉食べる?とか、まぁ言うのは野暮だとは思います。でも理由付けが行われて、法案だ何だと肉付けするとやっぱり荒さが気になります。

 

トリックは当然というか…入れ替わりトリックです。まぁこれは読んでいて途中で分かってしまいました。

これを隠れ蓑にしたクローンを巻き込まない入れ替わりトリックと、叙述トリックは良く出来ていたと思いますが、これを生かすために設定を肉付けした感は否めなく、各所に無理が出ていたかと思います。

 

パンクな人を探すという謎な理由で近づく風俗嬢。知能は小学生位までしか育たないと言われるクローンが、本を読んだだけで凄まじく知的になる謎。セキュリティが甘くガンガン流出するクローン培養ポッド。そもそもクローンが蔓延しているのに誰も入れ替わりを疑わないという矛盾。多くの偶然に頼ったトリック。

荒さが気にならない小説もありますが、世界観ごと作りこんでいる分、荒さが凄く目に付く小説でした。

 

探偵役が退場したり、意外性を狙いに言った展開もちょっと鼻についたなと…ミステリ的な仕掛けは良く出来ていた分、もったいなく感じました。