米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」
ミステリの醍醐味と言えば、終盤のどんでん返し。中でも、「最後の一撃」と呼ばれる、ラストで鮮やかに真相を引っ繰り返す技は、短編の華であり至芸でもある。本書は、更にその上をいく、「ラスト一行の衝撃」に徹底的にこだわった連作集。古今東西、短編集は数あれど、収録作すべてがラスト一行で落ちるミステリは本書だけ。
51点
ラスト一行でのどんでん返しとあるが、読んでいる時はあまり感じなかった。
ただ時代設定と、登場人物の上手い台詞で物語が終わっている事もあり、後に"お後がよろしいようで"と付けたい短編が揃っている。
いい意味でも、悪い意味でも、落語的なのだ。
落語的なホラーであり、ミステリなのだ。
時代設定は少し前の日本。
五つの短編は完全な連作とは言えないが、"バベルの会"という読書サークルに属した人が必ず登場する事で繋がっている。
そして上層階級での出来事と言う点で、全ての話が纏められている。
作品の中で面白かったのは「北の館の罪人」と「玉野五十鈴の誉れ」。
どちらもどんでん返しが後半に潜んでおり、ミステリとしても楽しめる。
キャラクターも魅力的に描かれ、非常にいい味を出している。
日常的な台詞をラストに持ってきて、違った意味の怖さを出す手法も中々に上手い。
また、"インシテミル"の時は全く感じなかったが、この作品では"北村薫に多大に影響を受けた"という印象が色濃く出ている。
人物描写、青春ミステリとしての手法などそれは随所に見られる。
その上で、独自性を出そうとしている部分が上手く混ざりこんでいる印象。
特筆するほどのインパクトは無かったが、不思議な新しさを持った良作。
「インシテミル」から入ったが、こちらが作者の持ち味のようである。
多少、同じ作風に飽きが来る所と、くだらなさを感じてしまう短編がある所はマイナスか。