吉田修一「パーク・ライフ」
公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。
47点
ミステリー・ホラーばかり読んでいると、気を抜きたいときがある。
最近もアクの強い作品ばかり連続して読んでおり、少し休みたいと思ったときに手に取ったのがこの小説だった。
まず表題作の「パーク・ライフ」。
日比谷公園で昼休みを過ごす「ぼく」。
そこに地下鉄で間違って話しかけてしまった「彼女」が現れる。
そして「ぼく」がペットの面倒を見ている別居中の宇田川夫妻や上京してくる母親など、様々な関係が「ぼく」の視点で描かれていく。
展開が大きくある話では無く、あくまで日常を描いている。
そしてその日常の描き方は退屈させず、程よいまったり感を持っている。
テーマとなるのは「自分の内面と他人視点の外面」。
ダヴィンチの不正確な人体解剖図のエピソードや、臓器移植の宣伝ポスター「死んでからも生き続けるものが
あります。それはあなたの意思です」の文句など様々な形で訴えかけてくる。
このテーマもわざとらしくなく、程よい深度で、小説のムードを壊さず描かれていく。
個人的にはもう少し展開していく形をとっても良かったのではないかと思うが、それは作者のバランス感覚でこうなっているのであろう。
二作目は「flower」。
喜劇女優になりたいと上京してきた妻、そしてその夫。
夫は勤め先で興味を引かれる人に出会う。
この作品は前作と逆に、対立や人格的な矛盾などリアルさを押し出した作品となっている。
細かいエピソードも含め、泥臭い部分が多い。
一冊通して読み、最も感じたことは「読者に委ねすぎではないか?」という事。
もちろん読者に委ねる作品が嫌いなわけではないし、意味深な終わり方が効いている作品もある。
だが全体的な印象の薄さ(地の文の弱さというと語弊があるが…)が終始続くので、なんとも微妙な読後感になってしまう。
もちろんこの読後感がいいという人もいると思う。
ただ自分はもう少し、展開や文章で読ませてくれると嬉しいと感じた。