中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

平山夢明「ダイナー」

ひょんなことから、プロの殺し屋が集う会員制ダイナーでウェイトレスをする羽目になったオオバカナコ。そこを訪れる客は、みな心に深いトラウマを抱えていた。一筋縄ではいかない凶悪な客ばかりを相手に、カナコは生き延びることができるのか?暗躍する組織の抗争、命がけの恋―。人の「狂気」「恐怖」を描いて当代随一の平山夢明が放つ、長編ノワール小説。

(「BOOK」データベースより)

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92点

 

平山作品の新境地。

長編でいかに平山夢明らしさを失わず、作品として短編を超えるかという課題。

「sinker」の時に感じていたその課題をいとも簡単に乗り越えてきた事は、驚愕に値する。

とにかく面白く、新しい。

 

「大馬鹿な子」ことオオバカナコは自分の平凡な人生に嫌気がさし、謎のアルバイトに手を出す。

車の運転をするだけのはずが、マフィアにつかまり、拷問を受け、殺される寸前だった。

そんな彼女を引き取ったのは「殺し屋専門の食堂」とその店主。

非情で冷徹、仕事のプロフェッショナルでありながら天才料理家のボンベロ。

そしてダイナーに集うさまざまなトラウマを抱えた異常な殺し屋達。

ウエイトレスの命が何より軽いこの空間でカナコの運命はどうなってしまうのか。

 

まず今回の作品で面白かったのが主人公・カナコのキャラクター。

普通の女の子でありながら、芯の強いところもあり、恋もする。

平山作品では見られなかった女性主人公のスタイルである。

そして彼女のキャラクターと魅力がこの小説の大事なポイントとなっている。

そしてボンベロという存在。

こちらは平山作品にはわりとおなじみのタイプ"プロフェッショナル"なキャラクター。

冷徹で寡黙、料理でしか語らず、愛犬家という彼の魅力も非情に良く出ている。

この二人がギリギリの駆け引きをしていきながら、少しずつ惹かれていく流れに違和感が無く見事である。

 

また魅力のもう一つがさまざまな殺し屋達。

みな一様に過去にトラウマを持ち、ある事を切欠に異常性を出すものもいる。

店の壁にかけられたウエイトレスの写真は全て客に殺されたもの。

そんな一癖以上ある客達とカナコのやり取り。

時にアクションテイストで、時に残虐。

ただその中に人間らしさが垣間見える事もある。

彼らの魅力もこの作品のパワーとなっている。

 

そしてなんと言っても料理がこの小説の魅力。

ボンベロの作る"筆舌に尽くしがたい"料理の数々。

殺人者を癒すためだけに存在するプロフェッショナルな料理は、読んでいるだけでお腹がすいてくる。

 

平山作品の魅力に恋愛のテイストや少しポップな世界観を加えた絶妙の一品。

これからの長編にいやがおうにも期待が高まる作品である。