吉村萬壱「バースト・ゾーン 爆裂地区」
「テロリンを殺せ!」ラジオからは戦意高揚のメッセージが四六時中流れ出す。テロリンっぽい子どもをいじめるテロリンごっこが流行する。テロリンっぽい行動をした奴は民衆のリンチでぶち殺される。いつ終わるともわからぬテロリストの襲撃に、民衆は疲弊し、次第に狂気の度合いを高めていった。肉体労働者の椹木武は病気の妻子を養うため、愛人を買春宿で働かせて稼ぎを搾取していた。小柳寛子は椹木のために、狂った客たちに弄ばれ続けていた。やぶ医者の斎藤良介は、今日も手術に失敗して一人を殺した。麻薬密売人の土門仁は浮浪者たちを薬漬けにしていた。素人画家の井筒俊夫は、売春宿で抱いた小柳のあとを尾け回していた。そして遂に最大級のテロが発生した。国家はテロリン殲滅の大号令を出し、地上最強の武器「神充」を確保せんと、大陸にある「地区」へ志願兵を送り込んだ。椹木、小柳、斎藤、土門、井筒、五人はそれぞれの思惑から「地区」へと向かう。しかし「地区」で待ち受けていたのは…超極限状況下における人間の生と死を、美しくかつグロテスクに綴る、芥川賞受賞作家渾身の破壊文学。
32点
「クチュクチュバーン」に近い小説だが、長編にする為に色々複雑さを取り入れている。
それが…あまり良く出ていないというのが印象だ。
物語は「テロリン」というテロ集団の恐怖に怯える日本。
そして志願兵となり大陸に移ってからの話。
設定は非常に面白い。
また登場人物のキャラクターも吉村萬壱らしく、アクが強く面白い。
しかし、そのいい部分が話の中で上手く活かしきれていないことが残念だ。
まず椹木、小柳、井筒、土門、斉藤という5人のメインキャストの視点が、大きく違わないことがまず一因にあると思う。
斉藤がかろうじで体制側ではあるが、それならそれでもう少し踏み込んでほしかった。
また、椹木、井筒、土門の物語上の役割がかぶっており、水増し感もぬぐえない。
椹木、小柳、斉藤だけでも成立できたのではないか。
次に話の終着点の荒唐無稽さがいただけないと思う。
もう少し短い話ならこれもありだが、長編ではちょっと投げっぱなしに感じる。
各人物の行動も若干不自然に感じざるを得ない。
ただ吉村萬壱は終末感を出すことが非常に上手いことも事実だ。
匂いまで感じるような荒廃しつつある日本の描写。
台頭するナショナリズム、そしてそこで生まれる男女の情愛の描写は凄まじい。
いい部分と悪い部分が見事に分かれており、好み次第では名作となりうる作品である。