吉村萬壱「クチュクチュバーン」
蜘蛛女、巨女、シマウマ男、犬人間…意味あんのかよ、こんな世界!第92回文学界新人賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
85点
これほどまでにサイケデリックな小説があっただろうか。
イメージの渦に巻き込まれ、抽象のかなたに飛ばされる。
けしてグロテスクなだけではない。
けしてムチャクチャなだけではない。
そんな魅力が詰まっている。
まず「ハリガネムシ」を書いた作者とは思えない。
それほどまでにタッチに大きな差がある。
確かな筆力と、物語を自分の中で構築する能力が無ければ決してかけない作品である。
読む人を選ぶと言えば間違いが無い。
ネット上では大絶賛か「トラウマになった」という否定のいずれかである。
平山夢明より遥かに好みが分かれる。
ただそれは文章をイメージさせる能力が高いことに他ならない。
その能力が高いからこそ、読者を必要以上に不快にさせ、面白みを与えている。
物語はおそらく地球、そしておそらく日本。
謎な理由で突然変異している人々。
そしてレミングの行動のように、人には理解の出来ない行動をとる。
ただそれだけだ。
ただそれだけをここまでの作品に仕上げた事は凄まじい。
シュール、不条理、グロテスク。
それぞれを極めた上で、人間を排除し感情移入を否定し、イメージのみで突き進む。
読んで私の人格を疑われると悲しいが(貸した友人とは疎遠になった…)、是非トライしてみてもいい小説だと思う。