中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

米澤穂信「氷菓」

いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。

(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

48点

 

長編のような、連作のような不思議な味わいの米澤穂信デビュー作。

新人らしい青臭さはあるものの、全体の纏め上げ方含めかなり素晴らしい才能を感じる。

 

何事にも"省エネ"を心がけ、やらないでいいことはやらないをモットーとする折木奉太郎

そんな彼の元に世界を旅する姉から、高校に入ったら古典部に入れとの手紙が送られてくる。

灰色の高校生活を望んで送る彼は、この事を切欠に様々な事件と出会っていく。

 

事件は殺人などを扱ったものではなく、日常に潜む謎が中心だ。

自分たちも学生時代に出会っていたであろう謎。

そんな謎を古典部同級生の千反田えるが拾ってきて、折木に解決させる。

折木は自分のモットーとの間で苦悩しながらも、古典部の仲間たちとの生活に少しずつ楽しみを覚えていく・・・。

まさに王道の青春ミステリである。

 

廃部寸前の古典部に入った一年生は四人。

この四人が物語の中核をなす。

好奇心が人並み外れて高く、記憶力はいいが応用の利かないお嬢様・千反田える

ジョークを愛し雑学に長け、自らデータベースと言い推理はしない・福部里志

福部に思いを寄せ、かわいい外見と裏腹に毒舌が冴える・伊原摩耶花

そして主人公の折木である。

 

この配置に関して作者はシャーロックホームズをモチーフにしていると述べている。

ホームズを折木、依頼人を千反田、ワトスンを福部、レストレードを伊原と言った具合だ。

他にも多作品、特に海外本格ミステリへのオマージュが多く見られ、今後メタ要素を多く盛り込んでいく米澤らしさが既に垣間見える。

 

氷菓の謎や、学園祭の名前の理由など、あえて言わなくてもいいような部分があり、多少寒いところも感じた。

またキャラクターも漫画的でリアリティにかける部分も。

しかし若さゆえに書けた作品であり、そのあたりも含めて一長一短と言ったところか。

 

彼らが卒業するまでシリーズは続くとの事で、現在はまだ二年生になったばかり。

年齢を重ねた作者の筆力で描かれる古典部シリーズには、大きな期待を寄せてしまう。