横山秀夫「第三の時効」
殺人事件の時効成立目前。現場の刑事にも知らされず、巧妙に仕組まれていた「第三の時効」とはいったい何か!?刑事たちの生々しい葛藤と、逮捕への執念を鋭くえぐる表題作ほか、全六篇の連作短篇集。本格ミステリにして警察小説の最高峰との呼び声も高い本作を貫くのは、硬質なエレガンス。圧倒的な破壊力で、あぶり出されるのは、男たちの矜持だ―。大人気、F県警強行犯シリーズ第一弾。
(「BOOK」データベースより)
84点
捜査畑の最前線、F県警強行犯係での事件を描いた連作短編集。
濃密な描写と見事なプロットが光る傑作である。
物語の中心となるのは強行犯係の一課から三課。
それぞれの課には凄まじい検挙率を誇る班長がいる。
一課は犯罪を嫌悪し、常にドライな姿勢を崩さない通称青鬼・朽木。
二課は独断・単独で行動し、卑怯なまでの搦め手を得意とする公安上がりの楠見。
三課は恐ろしい直観力を持ち、他の課との争いを強く意識する村瀬。
この三人の天才的な刑事のキャラクターがこの小説の大きな魅力だ。
手柄を奪い合い、犯罪を憎み、時に足を引っ張り合う。
そんな異常なほどのリアルさを感じさせる中でも、自分のモラルを崩さない班長達。
全六篇では描ききれないほど濃密な人間ドラマがそこにはある。
解説を読むとこの小説はモジュラー形式という方法を使っているようだ。
複数の事件が同時進行するスタイルだが、実際にこの手法を使う人間は少ないと言う。
確かにこの方式を使うには卓越したストーリーテリングの能力と、キャラクターの描写が必要となる。
しかし、この小説は見事にこの手法を昇華し、ミステリーの先にある人間達の姿まで浮き彫りにしている。
特に面白かったのは「囚人のジレンマ」。
三つの課が別の事件を追う中、それぞれの班長に翻弄される上司・田畑が主役となる話である。
それぞれの課、そして班長の個性を描き分け、優しいラストへと導く流れは見事。
警察小説としては一歩抜きん出た印象の本作。
個人的には「半落ち」よりこちらを進めたい。