乙一「夏と花火と私の死体」
九歳の夏休み、少女は殺された。あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなく―。こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄妹の悪夢のような四日間の冒険が始まった。次々に訪れる危機。彼らは大人たちの追及から逃れることができるのか?死体をどこへ隠せばいいのか?恐るべき子供たちを描き、斬新な語り口でホラー界を驚愕させた、早熟な才能・乙一のデビュー作、文庫化なる。第六回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受賞作。
35点
この話は殺された死体の主人公「五月」の視点で描かれている。
それは第三者視点とも違い、かといって恨みなどの感情を除外した、淡々とした視点である。
その視点で描かれるのは、ほんのはずみで五月を殺してしまった弥生と健の兄弟のお話。
彼らは必死に死体を隠そうとするが、そこに色々な大人の邪魔が入り…という展開。
ミステリーとしてはシンプルで、深いトリックも無い。
視点の斬新さ、そして背景として描かれる「花火大会」「お宮」などの夏の田園風景。
その対比と、シュールさがこの作品の最も面白い部分である。
まだ16才時代の乙一デビュー作ということもあり、荒い部分もあるが、類まれな才能を感じさせる一冊。
設定も挑戦的で悪くない。
と、ここまで褒めておいてあれだが、小説として面白いかというと…微妙である。
設定、文章力(若さはあるが)、展開と揃っているが、面白いわけではない。
そういった意味では、小説の難しさを感じさせる作品である。