中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

平山夢明「他人事」

空想が生んだ惨事が心の空白を埋める。無意味で不気味な心の暗渠を覗く14編。
(「BOOK」データベースより)
$Trial and Error

94点


今回、平山夢明が描くのは異形の恐怖ではなく、「他人」の恐怖。
作品のテイストも全体を通して統一されており非常によく出来た短編集だ。

だがこれほど読み手を選ぶ作品集は無いだろう。

漫画では伊藤潤二が描くような「理由の無い恐怖」。
なぜそんな事をされているのかすら分からない、その怖さが随所にあふれ出ている。

特に表題作の「他人事」は最高傑作と言ってもいい。
交通事故にあい、車の下敷きになっている男と、そこにいる全く話のかみ合わない「他人」。
そこにうまれるいわれの無い悪意。
平山夢明の持つ不条理を説得力を持って描く技術が存分に発揮されている。

他にも映画「ファニーゲーム」を髣髴とさせる「仔猫と天然ガス」(個人的には行き過ぎ感もあるが、14編の中では必要だったようにも思う)。
筒井的なワールドで展開する「定年忌」。
特殊な能力を持った女の子の話「恐怖症召喚」。
平山夢明の悪魔的な表現が炸裂する「人間失格」。
などなど傑作ぞろい。

平山夢明は「狂った作家」「良識が無い作家」としばしば言われるが、それは大きな間違いである。
綾辻行人が「殺人鬼」の後書きで書いたことが全てだと思う。

ただ、気軽にこの本をとることはお勧めしない。
非常に好みが分かれる作品である。

本のオビには「これを読む者は一切の望みを棄てよ。」と書いてある。
これは真実であり、その先にある小説がもつ別の力を見たい人だけが見るべき作品である。