中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

飴村行「粘膜蜥蜴」

国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、ある時同級生の月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。父は町で唯一の病院、月ノ森総合病院の院長であり、権勢を誇る月ノ森家に、2人は畏怖を抱いていた。〈ヘルビノ〉と呼ばれる頭部が蜥蜴の爬虫人に出迎えられた2人は、自宅に併設された病院地下の死体安置所に連れて行かれた。だがそこでは、権力を笠に着た雪麻呂の傍若無人な振る舞いと、凄惨な事件が待ち受けていた…。

(「BOOK」データベースより)

45点

 

「粘膜人間」を読みたかったが、なかなか無いので先に見つけた「粘膜蜥蜴」から。

独特の世界観と内臓を抉るような表現が強烈な印象を与える作品。

 

舞台は第二次世界大戦のパラレル的な設定。

シンガポール攻略のためナムールにという国に向かう美樹夫。

弟の真樹夫は日本で同級生、雪麻呂の自宅へ招待されていた。

そこで迎えたのは、雪麻呂の下男であり、ヘルビノという蜥蜴に似た頭を持つ冨蔵だった。

彼の家でそこから凄惨な事件が幕を上げる。

 

設定は荒唐無稽で、ストーリー展開も自由でまったく読めない。

まるで悪夢を見ているような錯覚に陥る。

 

まず軍国主義がこれでもかと進んでいる日本の世界観に圧倒される。

そしてそこに溶け込んでいる"蜥蜴人間"のディテールが強烈。

 

序盤は町の権力者・雪麻呂の横暴さと、それが引き起こす凄惨な事件。

そして不思議な顛末が描かれる。

軍国主義内での"家柄"というありきたりなテーマで、起こる事件やキャラクターの性格もありがち。

しかし、より人間の残酷さを描こうという姿勢のおかげで他の作品とは一線を隔す内容となっている。

面白かったのは雪麻呂にひどい事をされても憎めない真樹夫の吐露。

人間の感情は単純ではなく、あれをされたらこう思うとは決められない。

意外と小説でそこを表現するのは難しいのでは。

 

そして美樹夫の物語へと移っていくが、このパートが非常に面白い。

ジャングルの描写や奇妙な怪物、ゲリラとの戦闘やヘルビノの集落など、まるで冒険活劇のように話は進む。

中でも熱帯雨林の生物たちは強烈で、吉村萬壱を読んでいるようなグロテスクな生物がこれでもかと登場する。

 

そして雪麻呂のパートへ。

ここはすこし雰囲気を変えた内容で、様々な伏線が回収されるが、唐突だったり読めたりと内容は尻すぼみな印象。

麻薬"姫幻視"を用いての性交はくだらなすぎて面白かったが。

 

全体としては面白い要素は多数あるものの、話のバランスや収束が下手でアンバランスな印象。

非常にもったいない。

また世界観やストーリーがある中で、急にはさまれる荒唐無稽な展開や行動に今ひとつ共感できないのも事実。

それも含めて悪夢のようと感じるのではあるが。