舞城王太郎「煙か土か食い物」
腕利きの救命外科医・奈津川四郎が故郷・福井の地に降り立った瞬間、血と暴力の神話が渦巻く凄絶な血族物語が幕を開ける。前人未到のミステリーノワールを圧倒的文圧で描ききった新世紀初のメフィスト賞/第19回受賞作。
(「BOOK」データベースより)
83点
疾走感と重厚さを併せ持つ、切ないミステリー。
舞城王太郎のデビュー作。
主人公・奈津川四郎の独白から始まるこの物語。
サンディエゴを離れ地元、福井に戻る四郎。
福井では奈津川の母も被害者となっている主婦殴打事件が発生していた。
強烈なキャラクターの奈津川四郎という人物に最初は好感をもてなかった。
唯我独尊なキャラクターで独善的に物事を進める。
しかし、その裏にある家族への飢えや、愛への飢えが見え隠れしてくる事で、少しずつ彼を理解していく事が出来る。
物語の筋となる殴打事件とそれに絡んだ友人たちとのストーリー展開は絶妙。
そして四兄弟と親父が織り成す、壮絶な暴力に彩られた家族のストーリーも面白い。
しかし、この物語の素晴らしいところは後半での緊張感と、ストーリーのテーマと言うべき展開部分。
そこでは愛が語られ、暴力が語られ、癒しが語られる。
不器用だけれどもド直球な表現に心を打たれた。
サイドを固めるキャラクターも魅力的に描かれている。
奈津川四郎が主人公と言う必然性も、ラストまで読めば必然的に感じる事になるだろう。
ミステリやバイオレンスという手法で書かれた壮絶な愛の物語。
心に残る一冊である。