真藤順丈「庵堂三兄弟の聖職」
庵堂家は代々、遺体から箸や孫の手、バッグから花火まで、あらゆる製品を作り出す「遺工」を家業としてきた。長男の正太郎は父の跡を継いだが、能力の限界を感じつつある。次男の久就は都会生活で生きる実感を失いつつあり、三男の毅巳は暴走しがちな自分をやや持て余しながら長兄を手伝っている。父親の七回忌を目前に久就が帰省し、久しぶりに三兄弟が集まった。かつてなく難しい依頼も舞い込み、ますます騒がしくなった工房、それぞれの思いを抱く三兄弟の行方は?第15回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
70点
遺工師という職業をグロテスクなだけでなく、死にかかわる"聖職"として描いているところに非常に面白みを感じた。
父親の7回忌を前にして集まった兄弟。
長男は遺工師を継いでおり、類まれな才能を発揮しているが、父を超えられないことに悩んでいる。
次男は彼女との関係そして凄まじいまでの汚言症に悩んでいる。
そして三男は実家を離れ、東京でのサラリーマン生活に悩んでいる。
そんな三人の救いと再生を描いているのが一側面。
そして遺工師という職業を通して見る"死"についてが一側面。
このバランスは完璧と言えないまでも、上手く絡めていることは間違いない。
まず遺工師という架空の職業が面白い。
犯罪行為ではあるが、死に対しての慈しみの気持ちを抱えた仕事。
しかし、遺族への死してなお、家族と一緒にいたいという思いを引き受ける裏には、過酷で熾烈な遺工作りの現場がある。
そこで死に対して麻痺している兄弟は、それぞれの問題の解決にも死へのズレが垣間見える。
倫理の隙間をついたような設定と、そこに絡めたごくありがちであるはずの家族の物語が奇妙な作品を彩っている。
ラストの強烈な三人の共同作業は読者置いてけぼりな展開であるが、三人にしか共有できない世界を感じさせ、むしろこびない姿勢が強烈なリアリティを感じさせる。
完璧な作品ではないが、面白い要素を上手く絡めた秀作。
ホラーの賞を取っているが、ホラー的な要素は少なく、グロテスクな描写も比較的読みやすい。
次回作も読んでみたくなる作品である。