中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

貴志祐介「十三番目の人格―ISOLA」

賀茂由香里は、人の強い感情を読みとることができるエンパスだった。その能力を活かして阪神大震災後、ボランティアで被災者の心のケアをしていた彼女は、西宮の病院に長期入院中の森谷千尋という少女に会う。由香里は、千尋の中に複数の人格が同居しているのを目のあたりにする。このあどけない少女が多重人格障害であることに胸を痛めつつ、しだいにうちとけて幾つかの人格と言葉を交わす由香里。だがやがて、十三番目の人格「ISOLA」の出現に、彼女は身も凍る思いがした。第三回日本ホラー小説大賞長編賞佳作。

(「BOOK」データベースより)

86点

 

久しぶりの貴志祐介はデビュー作。

エンパシーと多重人格と臨死体験いう三つのキーワードを組み合わせた先にあるのは、非化学とオカルトの間にある奇妙な世界観。

ありがちなキーワードの組み合わせでここまで新しいものが作れるとは驚愕である。

 

舞台は阪神大震災直後の神戸。

由香里は感情を読み取る能力エンパスを使い、被災者の心のケアを行っていた。

その中で出会った千尋という少女の感情を読み取ったとき、彼女が多重人格者と知る。

学校のカウンセラーと共に彼女の人格統合を行おうとする由香里だが、彼女の中にいる13番目の人格・ISOLAに次第に恐怖を感じていく。

 

多重人格物としても非常にレベルの高い本作。

心理学的な側面からは学校の臨床心理士である野村浩子が、さまざまなアプローチで千尋の心を調べていく。

そしてカウンセラーとしてエンパスを持つ由香里が立つことで、非常に面白いコンビ物として序盤は進行する。

様々な心理テストや学説が出てきて、事象に対してのロジカルな裏づけがされていく。

 

しかしISOLAの登場により話が大きく展開する。

その流れが上手いし、面白い。

 

臨死体験幽体離脱、エンパスというオカルトな内容と、多重人格やジョン・C・リリーなどを絡めることで、荒唐無稽な後半の展開が科学の地続きという印象を受け、上手い流れが出来ている。

小さいところでは幽霊が夜にしか出ない理由が面白かった。

由香里の職業や千尋の叔母など余計な要素、伏線もあり、デビュー作ならではの荒さがあるが、それでも天才の片鱗を感じる。

 

人格の名づけ方や細かいディテールも面白く読んでいて飽きない。

個人的には「天使の囀り」より面白かったように感じた。