中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

恩田陸「不安な童話」

私は知っている、このハサミで刺し殺されるのだ―。強烈な既視感に襲われ、女流画家・高槻倫子の遺作展で意識を失った古橋万由子。彼女はその息子から「25年前に殺された母の生まれ変わり」と告げられる。時に、溢れるように広がる他人の記憶。そして発見される倫子の遺書、そこに隠されたメッセージとは…。犯人は誰なのか、その謎が明らかになる時、禁断の事実が浮かび上がる。
(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

31点


「暗黒童話」を読んだので、続けて童話をと思い手に取ったのがこの本。

「不安な童話」というタイトルに強く惹かれた。
不安というのは上手い言葉である。
そもそも発音がとても"不安"だ。
五十音の最初と最後の文字を合わせた"あん"というバランスの取れて安定した語句。
それに"ふ"を付けるだけでなんとも言えなく"不安"な感じが出ている。
まぁ当たり前のことなのだが。

物語はファンタジーとミステリーの両側面から進んでいく。

主人公・古橋万由子は画家・高槻倫子の絵を見て卒倒してしまう。
そして高槻倫子しか知らないはずの風景を見る事で、倫子の息子・秒から倫子の生まれ変わりではないかと指摘される。
人の心の中をビジョンとして見る力"失せものさがし"を持つ万由子。
生前の倫子も同じ力を持っていたという。
果たして万由子は本当に倫子の生まれ変わりなのか?
これがファンタジー的な側面。

ミステリーの側面が四半世紀前に起きた倫子の殺人事件。
彼女の遺書には四人の名前があり、それぞれに指定した絵を送るように書かれていた。
その中に犯人はいるのか。
そして遺書の持つ意味とは。

この両側面は初めは上手く絡み合い、グイグイと引き込んでいく。
だが中盤あたりから急にペースダウンし、最後にはグダグダの方向へ進んでいく。

まずミステリーとしてあまり面白い出来とは言えない。
中途半端に本格物の様相を呈しており、推理に辿り着く部分も飛躍がある。
犯人は途中である程度予想できるし、重要人物も目星が付く。
ただそれをどう配置し解き明かしていくかがミステリーの重要な要素だと思う。
そういった意味でも、探偵役が説明的に真相を話していく部分には興ざめした。
併せて、あまりにも設定に頼った結末だったのも気になった。

ファンタジーとしても中途半端な出来である。
白黒つける必要は無いが、釈然としない。
そのファジーな部分こそ恩田陸の魅力という人も多いが、個人的には今一つ。

私の考えでは"釈然としない"と"説明しない"は大きく違う。
中途半端な説明があるからこそ"釈然としない"のだ。
超自然に対して理解することそのものを放棄する事で、逆に名作になっている作品もある。
またロジックでガチガチに固めることでリアリティを出す作品もある。
そういった意味ではこの作品は中途半端に感じた。

序盤の流れは非常に良かっただけに、後半は残念だった。
この作品が恩田陸の魅力を出しているのならば、あまり作者に対して角度のある視線を持ちたくないので不本意だが、彼女の作品は好みで無いのかもしれない。