中山七里「さよならドビュッシー」
ピアニストを目指す遥、16歳。両親や祖父、帰国子女の従姉妹などに囲まれた幸福な彼女の人生は、ある日突然終わりを迎える。祖父と従姉妹とともに火事に巻き込まれ、ただ一人生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負ってしまったのだ。それでも彼女は逆境に負けずピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。『このミステリーがすごい!』大賞第8回(2010年)大賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
48点
クラシック音楽を主題においたミステリー。
このミス大賞受賞作。
序盤の幸福で満ち足りた描写から一転の展開は目を見張るものがある。
冷静に考えればありがちだが、古典的な手法が逆に目新しかった。
十六歳の少女が全てにおいて耐え難いハンデを背負う。
皮膚は焼けただれ、声はまともに出せず、体はつぎはぎだらけ。
そこから一筋の光明を与えるのがピアノである。
そして光明を与えた岬という若き天才ピアニストが、この小説のホームズ役を担う。
この岬というキャラクターは見事に完璧であり、そして強い人間として描かれている。
演奏に関しての描写が多い小説だが、岬の演奏は聞くものの想像を喚起する人間離れした演奏との事。
そういった意味では、少しクラシックに対しての誇張的な部分も感じてしまう。
しかし一曲一曲、丁寧に表現されていく音楽の描写は、説明くささを残しながら、情景を思い浮かべさせられる。
基本的にこの小説の魅力は音楽を通しての再生を描いた成長部分であり、それを支えるスポ根要素やいじめの要素だと感じた。
つまり肝心のミステリとしては弱いかなと。
序盤での描写の量を考えると、犯人に関しても多少の想像がついてしまう上、最終的な種明かしは少しアンフェア。
タイトルも含めて勘のいい人間なら、展開すら読めてしまうかも知れない。
しかも、この小説のいい部分を台無しにしかねない危険な仕掛け。
正直、この小説にこのトリックは合わないと感じてしまった。
もし、このトリックを使うのであればせめて、エピローグをと思うのは勝手だろうか。
キャラクターを意見誘導するかのように配置する事など含め、気になるポイントはあるが、作品としては面白かったし、メッセージも受け取れた。
ミステリを期待せずに読むのであれば、面白みのある小説だろう。