重松清「流星ワゴン」
主人公の永田一雄の前に、1台のワゴン車が止まったことからこの物語は始まる。ワゴン車には橋本義明・健太親子が乗っており、彼らはなぜか永田の抱えている問題をよく知っていた。永田の家庭は崩壊寸前。妻の美代子はテレクラで男と不倫を重ね、息子の広樹は中学受験に失敗し家庭内暴力をふるう。永田自身も会社からリストラされ、小遣いほしさに、ガンで余命いくばくもない父親を訪ねていくようになっていた。「死にたい」と漠然と考えていたとき、永田は橋本親子に出会ったのだ。橋本は彼に、自分たちは死者だと告げると、「たいせつな場所」へ連れて行くといった。そして、まるでタイムマシーンのように、永田を過去へといざなう。
85点
家族や親子の絆を描いたファンタジックな小説。
浮気する妻、暴力を振るう息子、死が近づく父、そしてリストラされた自分。
死にたいと思っていた永田の前に一台のワゴンが現れた。
そこに乗っていたのは事故で死んだはずの橋本父子。
永田は彼らのワゴンに乗って、大切な場所を旅する。
ファンタジックな設定と、現実的でリアリズムあふれる描写が素晴らしい。
過去の自分になって、気づかなかった大切な日をやり直していく。
しかし、それで未来が変わるわけではないという。
そんな苦しいともいえる旅の中で、永田が見出す答えはリアリティにあふれてとても感動的。
ストーリーテラーとしてのポジションにあたる橋本父子のエピソードも絶妙。
飄々として愛らしい息子とお人よしの父。
二人の距離感とお互いを思う気持ちに心を打たれた。
すっと心が軽くなるようなラストや、全体を通してこめられたやさしくも厳しいメッセージ。
人生に絶望している時に読んで欲しい一冊。