桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」
“辺境の人”に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の“千里眼奥様”と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。―千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。高度経済成長、バブル景気を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の姿を、比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。
45点
高度成長期からバブル崩壊、そして平成へと紡がれる赤朽葉家の女性三代を描いた作品。
第一部の中心は語り部の祖母である赤朽葉万葉。
彼女は辺境の人に捨てられ、赤朽葉家が製鉄業を営んで繁栄する鳥取県紅緑村で若夫婦に育てられる。
人の死など常人には見えないものが見える彼女は、赤朽葉家に嫁いだ後「千里眼奥様」と呼ばれる。
第二部の中心は語り部の母である赤朽葉毛鞠。
彼女は荒い気性を持っており、中学時代からレディースの頭となる。
彼女には妾の娘であり、腹違いの妹である百夜の姿を何故か見ることが出来なかった。
この作品は全編、赤朽葉の長女、赤朽葉瞳子の語りで進んでいく。
一部、二部では万葉や毛鞠を含めた赤朽葉家の面々の色々なエピソードが描かれていく。
ファンタジーのような話もあれば、戦後史を交えたリアリティのあるものもあり、なかなか楽しめる。
全共闘闘争、石油ショック、国民所得倍増計画、校内暴力、イジメ、バブルなど時事ネタも盛り沢山。
ただミステリ色は無く、あくまで一族の物語として描かれている。
そして最期の三部に入ったところで、物語は意外な方向に進む。
この手法はかなり面白い。
以下、若干のネタバレ。
第三部では万葉のとある告白を受けた瞳子が、過去を振り返りながら矛盾を探すストーリーとなっている。
つまり一部、二部のどこかに矛盾があるというのだ。
この急展開は非常にスリリングで、新しい手法に感じた。
ただ、矛盾自体は物語で明らかにされていない部分が明確にあり、すぐに分かってしまった事が残念。
ここがさらに読み応えがあれば、全ての欠点が吹き飛ぶくらいの名作になっていただろう。
全体を通して読むと、冗長さが少し目立つ。
タツの命名や出目金とのエピソードなど面白い部分も多いのだが、不必要なのではと思うような部分も多々。
ラストでそれを一蹴して欲しかった。