伊島りすと「ジュリエット」
第8回日本ホラー小説大賞大賞受賞作品!ゴルフ場跡地の管理の職をえて南の島にやってきた親子3人。島に伝わる"魂抜け"の儀式を偶然目撃してしまった彼らの周りで不思議な出来事が起こり始める……。ホラーの領域を更に広げたと言わしめた大傑作、登場!
12点
それぞれに拭えない死へのトラウマを抱えた父と娘・息子。
破産した父の勤め先として、三人は都会を離れ南の島へとやってくる。
新しい仕事は、建設途中で工事が止まったゴルフ場の管理人。
そこで暮らし始めた三人に奇怪な出来事が起こり始める。
沖縄周辺をイメージして描かれた、リゾート開発を途中でやめられてしまった島。
選評でも書かれているとおり、島文学としてのイメージが濃い作品である。
要素はこれでもかと詰め込んである。
だが全ての要素が尻切れ蜻蛉で終わっている。
含みを持って娘の口から語られる"父ではなくなってしまった"の言葉。
貝殻を取るときに行う"魂抜き"の因習。
死ぬ場所が見える"死場"という能力を持つ娘。
これらの展開しそうな伏線は一切展開しない。
また仕事を斡旋した工藤の蝶ネクタイという設定も、何の意味も無い。
タイトルや、思わせぶりなゴルフ場の構造(ダストシュートなど)も意味が無い。
それらの伏線を全て無視して、シャイニングのような雰囲気から、ペットセメタリーへ。
そして謎の感動展開。
全てが強引で納得がいかない。
ご都合主義よりにすら達しておらず、破綻させたままでエンディングを迎える。
冗長さもかなり感じた。
無駄な心理描写が多く、引き延ばしにしか感じない。
唯一良かった点は、"暑さ"が上手く描けていた事。
個人的にはホラー作家としての資質の一つに、"暑さ"の表現の巧みさがあると思う。
そこは抑えられていたかなと。