東野圭吾「宿命」
高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければならなかった男は、苦闘の青春を過ごした後、警察官となった。男の前に十年ぶりに現れたのは学生時代ライバルだった男で、奇しくも初恋の女の夫となっていた。刑事と容疑者、幼なじみの二人が宿命の対決を果すとき、余りにも皮肉で感動的な結末が用意される。
28点
1990年に執筆されたこの作品は、東野圭吾の転機になった作品である。
それまで犯人やトリックを謎の根幹として置いていた彼が、初めてそれ以外の謎を設定した作品だからだ。
勇作と晃彦。
小さいころから運命付けられたようにお互いを意識し、反目しあっていた二人が、容疑者と警察官という立場で再びあいまみえる。
そこに何かしらの作為はあるのか。
東野圭吾はまずこの小説をラスト一行から書いたそうだ。
そしてそのセリフにつながる人間関係、事件を二ヶ月に及んで構築した。
こうして「作者の見えざる手」によって逆算式につけられた宿命は、やはり違和感を感じずにはいられない。
設定の強引さ、謎の強引さなど。
だがそれを帳消しにする最後のセリフは、1990年当時とは違い、ありがちなオチとなってしまった為、全体の締まりが悪くなっている。
また宿命というタイトルが表すとおり、二人の関係は不自然にかかわっている。
それが何なのか。
最終的に解き明かされた後でも、いくつかの謎は「偶然」という形で結論付けられ納得がいかない部分もある。
また物語の中心の一人であった人物が、後半から蚊帳の外になってしまっているのもバランスが悪い。
このタイプのミステリーは現在世に溢れており、東野圭吾の作品でも良く見れる。
そんな犯人やトリック以外の謎に対して飽食な時代の人間には、色々な側面で不満が残る作品かと思う。
ただ一点、やはり上手いなと感じたのはタイトルの使い方だ。
「使命と魂のリミット」でも感じたが、ここぞという場面で意外性を持ってタイトルを出す。
その演出はすばらしい。