中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

貴志祐介「青の炎」

櫛森秀一は、湘南の高校に通う十七歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との三人暮らし。その平和な家庭の一家団欒を踏みにじる闖入者が現れた。母が十年前、再婚しすぐに別れた男、曾根だった。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意する。自らの手で曾根を葬り去ることを…。完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い。その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた、日本ミステリー史に残る感動の名作。
(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

51点

 

青春ノワール

 

序盤の秀一が義父に殺意を抱くまでのシーンは凄まじい。

誰しも秀一に感情移入してしまうような義父のキャラクターは、少年に殺意を抱かせる理由としては十分すぎる。

 

この小説の面白さは秀一に感情移入し応援すらしていた読者が、徐々に秀一の思考についていけなくなる部分だと思う。

作中では山月記などを引き合いにして、殺人者とそうでない人間。

そしてそこから始まる闇について触れている。

それこそが読者が秀一に抱く印象であり、この小説のメインディッシュではないだろうか。

 

ただ先があまりにも読めすぎてしまう展開はどうかと思う。

青春ノワールとしてはありがちすぎる。

それこそフォーマットに乗っ取った、教科書のような作品だ。

そこが今ひとつ物語を楽しめない原因になっている。

 

少年の心理描写やキャラクターには好みが出るだろうが、私は好感触だった。

一部では秀一の自意識過剰でブラックな側面を持つ性格に、感情移入しづらいという意見も聞く。

後半の秀一には意図的に感情移入しづらくしている感があるので、前半の言動などでそう思われているのだろう。

だが高校生の頃は誰しも少しくらいは自分が特別だと思っているものである。

その範疇は越えていないと感じた。

 

むしろサイドを固めるキャラクターの弱さが気になった。

特に紀子に関しては、もう少し丁寧に描いても良かったのではないかと。

 

トリックを含め細部まで作りこまれているし、書きたかった事も存分に伝わった。

それでも手放しで面白いとは言えないのが、小説の難しい部分でもあり、面白さでもあると思う。