中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

貴志祐介「天使の囀り」

北島早苗は、ホスピスで終末期医療に携わる精神科医。恋人で作家の高梨は、病的な死恐怖症だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように、自殺してしまう。さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と異常な方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンで、いったい何が起きたのか?高梨が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか?前人未到の恐怖が、あなたを襲う。

(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

51点

 

1978年の今日、非公式の日本最低気温マイナス41.2度を記録した。

これを記念し1994年、北海道幌加内町の「天使の囁きを聴く会」が2月17日を「天使の囁きの日」と制定。

天使の囁きとは、空気中の水蒸気が凍ってできるダイヤモンドダストのことらしい。

本著はそれとは全く異なる音「天使の囀り」を聞く者たちが登場するホラーである。

 

さすがは貴志祐介と感じる部分は多い。

理系視点で描かれた破綻の無さもさる事ながら、地の文が非常に読ませる。

アマゾン原住民の間で伝えられる伝承の和訳を上手い形で不気味に表現したり、「黒い家」でも見せたホラー的二段オチを使用したりと、今回はホラー作家としての小技も利いている。

しかし、読後感としては今ひとつ面白みに欠けていたかなと。

 

まず、かなり序盤で原因について読者は分かってしまう。

それを追いかける形で、主人公の早苗がストーリーを進めていくが、これがどうにももどかしい。

理系的な説明が長く、なかなか読者の思う位置まで話が追いついてこない。

 

そして早苗というキャラクターにも魅力が無い。

行動の一貫性もさる事ながら、ホスピスでの苦悩が最終的な部分で重要な要素として関わってくるなら、もう少しそこへのフリが必要だったようにも感じる。

ラストは悪くないが、フリが利いていないだけに納得感は薄い。

後半になって厚生省批判の方向を過剰に押し出しているのも、急に社会的になった感がありお寒い。

 

物語は途中で複数視点になるが、その"オタク"として描かれる信一の部分にも不満が残る。

最も大事なあたりで信一のパートは終了し、最後に至るまでの重要な部分が省かれている。

それでは意味合いが薄いし、バランスが悪い。

 

今回は人間の心理面が重要な要素を持ったネタだが、心理側面より理由付けの外的側面を重視しすぎなのではないか。

そのせいで、このネタだけが持つ恐怖感やオリジナリティが薄れてしまっている。

殆どのキャラクターに魅力を感じないのも、ネタからすると芳しいとは言えない。

 

理系的な裏づけの過剰さが、冗長さと取れてしまう人は向いていない本かもしれない。

同一ネタを小説、漫画、映画などで見ていない人には新鮮に映るであろう。