中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

高野和明「十三階段」

犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。

(「BOOK」データベースより)

81点


江戸川乱歩賞受賞作にして高野和明のデビュー作。
死刑に関しての濃密なメッセージとプロットの見事さ、キャラクター描写のバランスが非常に良い秀作。

死刑囚の木嶋は犯行当時の記憶を失ったまま、執行を待っていた。
しかし執行が迫るなか彼の記憶に事件当日に登った階段の記憶が蘇る。
その記憶を手掛かりに、弁護士事務所から木嶋の冤罪を証明するように依頼を受けた刑務官の南郷。
南郷はパートナーとして過失致死で収監され、現在保護観察となっている純一を指名する。

いわゆる死刑物として、犯罪被害者物として、加害者物としての精度は非常に高い。
刑務官の目を通して描かれる死刑の矛盾とその過程。
死刑制度に賛成的な立場だった南郷が、刑務官の職務を通して矛盾や悲惨な現状に触れていく。
しかし反対派としての論調では無く、あくまで現場視点で知らなかった事実を描く手法は好感がもてる。

また犯罪加害者である純一の更生の難しさも描かれ、好青年である彼の葛藤もリアル。
それぞれ立場の人間がそれぞれ心情や苦難を吐露し、あくまで中間的な立場で描かれるリアリズム溢れる犯人逮捕後の関係者達。
しかもミステリとしてくどくなく、あくまでテーマとして適度な表現となっている。

本編のミステリはかなり骨太な作り。
千葉房総で起きた保護司殺害事件、そして犯人とされ死刑をまつ木嶋。
彼の執行をタイムリミットとして奔走する二人に手に汗を握る。
また絞首台の代名詞であった十三階段を、現在の死刑を承認し執行するまでに経る法務大臣までの十三の手続きとして表現しているのは秀逸。
各関係者が死刑囚を殺す為に、手続きを進めながら独白する感情も深みがある。

伏線も見事で、高校時代家出をした純一の過去、南郷のこの仕事への思い、弁護士の先の依頼者、階段の記憶など見事に配置されている。
トリックが用いられるわけではないが、その全てを繋げる真実も素晴らしい出来。

後半の二転三転する流れとスピード感ある描写、そして真実まで非の打ち所がない。
ラストに関しては賛否ありそうだが、リアリティを追求しながら少しの希望を持たせたラストは心に響いた。

江戸川乱歩賞は作品の質にムラがあるが、この作品は間違いなく一級品。
デビュー作とは思えない完成度である。