今村昌弘「屍人荘の殺人」
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け―。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった…!!究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!
(「BOOK」データベースより)
72点
第18回本格ミステリ大賞など各賞受賞の話題作の本作ですが、とかく最近こういった「特殊設定ミステリ」が多いですね。個人的に読んでいる中では、まだ大はずれが無く、わりと安定して面白いジャンルな気がします。
以下ネタバレあり
確かに評価が高いのもうなずける作品です。いくつかの要素が絡み合ってこの好評価が生まれているのかと思いますが、個人的な見解を書いていきたいと思います。
特殊環境クローズドサークル
まず一番はこれでしょう!ゾンビが発生し、ショッピングモールに立てこもるという展開はゾンビ映画の王道展開ですが、今回は地方の貸切ホテルでそれが発生します。そしてそのクローズドサークル内で事件が発生していく展開です。この舞台装置の評価が特に高いように感じます。舞台装置自体も犯行動機やトリックにも深く関与しており、非常に良く出来ています。
ただ・・・映画では最近「ゾンビ×〇〇」って多いですよね。そんな映画などなど良く見ているせいもあって、「ゾンビ×クローズドサークルミステリ」自体にはそこまで新しさは感じなかったです。
ミステリとしての正当性
さまざまな伏線やヒントが出てきて、最終的に解決編に入るベーシックなミステリの構成ですが、この解決編に至るまでのヒントなどが非常にフェアで、よく考えれば犯人が分かるようになっています。かといってヒントを出しすぎでもなく、非常にバランスが良く出来ています。これがミステリファンの心をつかんでいるようです。
ここは素晴らしくよくできた部分だと思いますし、先が気になる引き込まれる構成になっていたなと。
キャラクターが分かりやすい説明パート
これも評価されていますが、個人的には非常に冷めてしまった部分ですね・・・。確かにこういうミステリって登場人物が誰がどの人か分かりづらいのは理解できます。それもあって登場人物にわかりやすい名前をつけるのは手法として確かにあるかと思います。
今回の登場人物もキャラクターと名前はリンクしており、分かりやすくなっていますが、その説明パートがあるんです!
探偵役がワトソン役に「彼はサーファーだから立浪波流也」とか説明していくんですが・・・これって冷めません?急にそんなメタっぽい展開いらないというか・・・。
本作品って漫画っぽいというか、金田一少年の事件簿っぽいムードと展開なんですが、そういった漫画でも名前は分かりやすくしても、その説明まではしないですよねw
ここがいい!って人も多いみたいなんですが、個人的にはどう考えてもやりすぎかなぁと。
新人とは思えない作品ですし、非常に良く出来ているとは思いますが、人物の掘り下げが浅かったり(そこがいいという人もいるかと思いますが)、欠点もチラチラ個人的には見えるかなぁと。
期待値を上げすぎないで読めばいい作品だと思います。