中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

森見登美彦「有頂天家族」

糺ノ森に住む狸の名門・下鴨家の父・総一郎はある日、鍋にされ、あっけなくこの世を去ってしまった。遺されたのは母と頼りない四兄弟。長兄・矢一郎は生真面目だが土壇場に弱く、次兄・矢二郎は蛙になって井戸暮らし。三男・矢三郎は面白主義がいきすぎて周囲を困らせ、末弟・矢四郎は化けてもつい尻尾を出す未熟者。この四兄弟が一族の誇りを取り戻すべく、ある時は「腐れ大学生」ある時は「虎」に化けて京都の街を駆け回るも、そこにはいつも邪魔者が!かねてより犬猿の仲の狸、宿敵・夷川家の阿呆兄弟・金閣&銀閣、人間に恋をして能力を奪われ落ちぶれた天狗・赤玉先生、天狗を袖にし空を自在に飛び回る美女・弁天―。狸と天狗と人間が入り乱れて巻き起こす三つ巴の化かし合いが今日も始まった。

(「BOOK」データベースより)

75点


森見登美彦の小説は実は初である。
狸と人間と天狗が織りなす狂想曲を描いた作品。

京都は狸と天狗と人間が住む町。
そこに住む狸の矢三郎は名家下鴨家四兄弟の三男。
「楽しき事は良き事かな」を身上とする彼は力を失った頑固な天狗・赤玉先生の面倒を見ながら気楽に暮らしていた。
しかし彼の周りには半天狗の弁天や変わった兄弟などトラブルの原因が満載。
京都の町は三つ巴の騒動に巻き込まれていく。

家族愛や生命讃歌をはらんでいるが、基本的には純粋なエンタメ作品。
無性に狸が愛らしくなる事間違いなしである。

この小説の一番の魅力はキャラクターにある。
阿呆でありながら人生を楽しむ狸達。
頑固だがここぞに弱い矢一郎、やる気がなさすぎて蛙に変化して戻れなくなった矢二郎、狸の掟関係なしに人生を謳歌する矢三郎、臆病な矢四郎の四兄弟は愛らしく、それを束ねる母は素晴らしく母である。
彼らは狸の代表を勤めた立派な父を人間の忘年会「金曜倶楽部」に食べられ、失意の中お互いの欠点を補いながら暮らしている。
その周囲には老天狗で頑固で無力な赤玉先生、元人間だが赤玉先生に惚れられ半天狗となった小悪魔的な女性・弁天、金曜倶楽部に属す狸を愛す淀川教授、ライバル狸の早雲と馬鹿な息子金閣銀閣、そして妹であり矢三郎の元許嫁・海星…などなど。
バラエティに富んだ面々が時に愛らしく、時にシリアスに立ち回る。

作りが上手いと感じたのは狸の人間臭さと阿呆さ。
宝塚にはまり通う母狸など人間さながらにも関わらず、人間に食べられる事をよしとはしないながらも仕方無しと楽観的になる狸全体の種族特性が上手く統一して描かれている。
そして阿呆な狸、頑固で偉そうな天狗、人間の相容れない三種族が肩を寄せたり反発したり畏れたりしながら、スラップスティックな話を紡ぐ。
また京都の四季も鮮やかに描かれ、物語に独特の無常感を与えている。

ラストまでは登場人物説明的な話が続くがそれも十分面白い。
しかり伏線を回収しながら怒涛の勢いで進むラストの一章は素晴らしい。

個人的には罵詈雑言を矢三郎に浴びせながらも時に助け、顔を一切見せない謎の元許嫁・海星のキャラクターが面白かった。