舞城王太郎「好き好き大好き超愛してる。」
- 愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。「恋愛」と「小説」をめぐる恋愛小説。
- (「BOOK」データベースより)
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70点
愛する事を、ひたすらまっすぐ不器用に、そして小ばかにしたような表現でまとめた小説。
恋人との安易な死を描く昨今の作品群、特に「世界の中心で、愛をさけぶ」に対してのアンチテーゼ的な作品。
まずは表題作の"好き好き大好き超愛してる"。
主人公は小説家。
そして恋人は癌によってもうすぐ亡くなってしまう状況。
そのありきたりな設定を、どこまでもリアルに、まっすぐに描いている。
面白かったのは小説家が作品内で描く小説。
アダムとイブという戦闘兵器による神との戦いが描かれており、恋人を失った作家の無常観が良く出ている。
またその反面人間ならではのドライさも描かれており、それも含めてリアルな出来。
キャラクターの魅力が勝っているわけでもなく、ストーリーが特筆する内容というわけでもないが、愛がまっすぐに刺さる作品。
恋人との死別は悲しいだけじゃない。
それをどこまでも掘り下げている。
もう一篇は"ドリルホール・イン・マイ・ブレイン"。
ある日、家に襲い掛かった不幸により、頭にドライバーが刺さってしまった主人公。
そのドライバーが刺さった状態で、彼は夢の中で世界を守るヒーロー・村木誠となる。
夢の世界との境界を描いた本作。
遊び心満載の設定と夢ならではの出鱈目な感じが上手く表現できている。
また頭の穴が性感帯となっている村木は、角をもった少女と惹かれあう。
その二人のストーリーもなかなか面白い。
最終的なパラドックスも上手いし、小説としては"好き好き大好き超愛してる"より上手く構成されている印象。
どちらも一読の価値がある作品。
舞城節が嫌いではないなら是非。